自然への憧れ

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潮騒:  潮騒が聞こえる  遠く潮騒が聞こえる  古びた宿の出窓に腰掛け  僕はずっとその音に耳を傾けていた  菜の花の香りに混じって  どこかうっすらと潮の匂いを感じたのは  僕の気のせいだったのか  潮騒が聞こえる  遠く潮騒が聞こえる  どこか懐かしくて  どこかほろ苦い  感情の波が僕の身体を揺らし  僕を侵食していく  その波は永遠に繰り返され  きっと今度は僕自身すらも消していくだろう  心地よい波の揺らぎに身を任せながら  僕はただ沈思する  記憶を亡くす前の僕は一体どんな人間だったのだろう…  潮騒が聞こえる  遠く潮騒が聞こえる  きっとその音だけが変わらぬ何かを留めておくことだろう
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