第1話

4/11
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
「待て。そりゃ確かに、そうなんだが。問題は、特定の人間が悪条件の元で何度も燃えるのではなく、狙った人間に遠隔で火をつけることができる女がいる、ということだ」  事件は四日前。同じ警視庁捜査一課の刑事である芳本真理子に、田舎から姉が訪ねてきたことから始まる。その姉、花岡マリコは、芳本のアパートを訪ねたが留守だったので、直接職場である警視庁を訪ねた。ちょうどその時、芳本は上司に怒鳴られていた。書類の不備を注意されていただけなのだが、その様子を目撃した花岡は不機嫌になり、突然上司の服が燃え上がった。間もなく鎮火したが、同日、警視庁内の食堂にて、芳本が婚約者の長野という男を花岡に紹介したところ、再び花岡は不機嫌になり、今度は長野の服や髪の毛が燃え上がった。 「接触したわけではないし、近辺に火の気もない。所持品に引火性のあるものなんかないのだから、捕まえるわけにも行かず、今は任意で隔離施設に入ってもらってるんだが」  原因は掴めない。しかし、芳本真理子が断言した。  マリコがやったんです。 「じゃあ、その花岡って女が犯人なんだろ。署内で済んでるんだから、謝罪させて釈放してやれよ。たいしたけが人も出てないんだろ?」 「署内はな。問題は、その花岡が警視庁に来るまでの間に起こったことなんだ。どうも、芳本の以前付き合っていた男というのが、芳本につきまとっていたらしいんだが」 「ストーカーか」 「ああ。俺も相談を受けたが、被害を把握する為に訪問者が来たら、その画像と時間をメールで通知するシステムを紹介したんだ。防犯カメラのように玄関に取り付けるタイプの。相当困っていたらしい 。そのストーカー男が、芳本のアパートでばったり花岡と鉢合わせしたんだ。花岡は、写真や話で事情を知っていたようだ。問い詰めた花岡から逃げるようにストーカーは階段を下りた。すると、その男は突然燃え上がり、みるみる青い炎に包まれて、あっという間に黒焦げ。もちろん死亡。花岡は、それを横目に知らぬ顔して立ち去った。その一部始終を、近所のばあさんたち数人が目撃してたんだな」  男と花岡は、三メートルほど離れた状態で、接触した様子はなかったという。 「じゃあ、きっとその女が超能力で火をつけたんだろ。逮捕できなくて残念だな、ご苦労さん」  寺田は壁を向いて笑った。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!