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「笑い事じゃないんだ。いつまでも花岡を拘束しておくわけにはいかないし、謎の人体発火現象の恐怖、なんてテレビや雑誌は盛り上がってる。早く収束させないと。な、頼むよ。専門外ならそれでもいい。一度、彼女を見てくれないか」
「自殺や事故に仕立て上げるのがお前らの仕事だろ?」
「そう茶化すなよ」
寺田は、あっと小さく呟いて、顎に手を当て首を傾げた。
「そういえば、うちの婆さんが言っていたな。悪行を行った者の所には牛頭鬼と馬頭鬼が火車で迎えに来る、と」
「ごずきとめずき? かしゃ?」
「なるほど、それなら見てみよう。ただし、俺は見るだけだぞ」
包帯に隠れた瞼がぱちりと動いた気がした。
講義終了を知らせるチャイムが鳴り響くと、講堂からはぞろぞろと学生が出て行く。教壇には白髪交じりの男が帰り支度をはじめていた。
「浦河教授、お久しぶりです」
ふと顔を上げると、懐かしい顔があった。
「おや、君か。芳本くん」
「お元気そうですね」
浦河は微笑むと、近くにあったパイプ椅子に座るよう促した。
「どうしたんだい、突然やってきて」
「たまには教授の顔が見たいなって思ったんですよ。いけませんか?」
「いけなくはないが、それは君らしくないね。何かあったのだね?」
真理子は唇を噛んで目を反らした。
「マリコが、来たんです」
「花岡くんが、いや、それは」
「来ないでって言いました。私から村に帰るから、こっちには来ないでって。でも、来てしまった」
「それは、まずいね」
浦河は、真理子たちの父の友人であった。父が亡くなった時、偶然に村に居合わせたうちの一人で、真理子たちのその後の面倒も見てきた。
「もう、まずいことになってしまいました」
「まさか、今テレビや新聞で報道されている人体発火現象は、花岡くんが」
「私は、信じてません。いくらお父さんを燃やしたのがマリコだからって。今回はマリコじゃないと思ってます。でも、原因がわからない。このままじゃ、マリコが」
「落ち着きなさい。とりあえず、私も花岡くんと話をしたいんだが」
「私ならここにいるよ」
浦河と真理子が顔を上げると、講堂の後ろの扉の前に、マリコが立っていた。
「マリコ・・・」
「大学って初めてきた。広いんだね。迷子になりそう」
「どうやってここに来たの?」
「どうやってって、真理子の後をついてきたの。切符買って、電車乗って。楽しかったあ」
マリコは無邪気に笑った。
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