第1話

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「笑い事じゃないんだ。いつまでも花岡を拘束しておくわけにはいかないし、謎の人体発火現象の恐怖、なんてテレビや雑誌は盛り上がってる。早く収束させないと。な、頼むよ。専門外ならそれでもいい。一度、彼女を見てくれないか」 「自殺や事故に仕立て上げるのがお前らの仕事だろ?」 「そう茶化すなよ」  寺田は、あっと小さく呟いて、顎に手を当て首を傾げた。 「そういえば、うちの婆さんが言っていたな。悪行を行った者の所には牛頭鬼と馬頭鬼が火車で迎えに来る、と」 「ごずきとめずき? かしゃ?」 「なるほど、それなら見てみよう。ただし、俺は見るだけだぞ」  包帯に隠れた瞼がぱちりと動いた気がした。  講義終了を知らせるチャイムが鳴り響くと、講堂からはぞろぞろと学生が出て行く。教壇には白髪交じりの男が帰り支度をはじめていた。 「浦河教授、お久しぶりです」  ふと顔を上げると、懐かしい顔があった。 「おや、君か。芳本くん」 「お元気そうですね」  浦河は微笑むと、近くにあったパイプ椅子に座るよう促した。 「どうしたんだい、突然やってきて」 「たまには教授の顔が見たいなって思ったんですよ。いけませんか?」 「いけなくはないが、それは君らしくないね。何かあったのだね?」  真理子は唇を噛んで目を反らした。 「マリコが、来たんです」 「花岡くんが、いや、それは」 「来ないでって言いました。私から村に帰るから、こっちには来ないでって。でも、来てしまった」 「それは、まずいね」  浦河は、真理子たちの父の友人であった。父が亡くなった時、偶然に村に居合わせたうちの一人で、真理子たちのその後の面倒も見てきた。 「もう、まずいことになってしまいました」 「まさか、今テレビや新聞で報道されている人体発火現象は、花岡くんが」 「私は、信じてません。いくらお父さんを燃やしたのがマリコだからって。今回はマリコじゃないと思ってます。でも、原因がわからない。このままじゃ、マリコが」 「落ち着きなさい。とりあえず、私も花岡くんと話をしたいんだが」 「私ならここにいるよ」  浦河と真理子が顔を上げると、講堂の後ろの扉の前に、マリコが立っていた。 「マリコ・・・」 「大学って初めてきた。広いんだね。迷子になりそう」 「どうやってここに来たの?」 「どうやってって、真理子の後をついてきたの。切符買って、電車乗って。楽しかったあ」  マリコは無邪気に笑った。
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