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真理子は、マリコの腰に回した腕に力をこめた。
「そんなはずない」
「あんた、まさか無意識でやってたなんて言わないだろうな。無意識でやってるなんて一番の罪だぜ。知らぬ存ぜぬで免れると思うなよ」
「おい、寺田。どういうことだ。説明してくれ」
森下は粉まみれの浦河を椅子に座らせた。
「お前から話を聞いておかしいと思ってたんだ。署内の人間は、火は出たが怪我はない。
しかし、ストーカー男は、あっという間に燃えて死んでしまった。今しがたの、その先生だって、燃えたが火傷はないだろう」
「ああ、確かに」
「つまりは、本当に死んでほしかったストーカー男以外は、カムフラージュ。花岡マリコがやったかのように見せかける為のな」
寺田の目元が動いた。
「ということは、芳本が人体発火させていたのか? 超能力なのか?」
「だから、澱だよ。二人の母親の怨念がこびりついてる。まるで、牛頭と馬頭だ」
寺田の髪の毛が逆立ちはじめた。何か感じているのか。鼻の頭には汗が浮かぶ。
「真理子じゃないの。私なの」
真理子の腕を振り解いて、マリコは寺田の前までやってきた。
「私なの。お父さんを黒焦げにしたのも、あの男を焼いたのも、全部私なの」
「なら聞くが、お嬢さん。あんたなら、本当に守りたいものをどうする? 俺なら嘘をついてでも危険なものから避けて、手元に置いておきたいね」
「ま・・・まさか、おばあ様は」
浦河がかすれた声で言った。
「そのばあさんは知っていたんだ。自分の娘たちが死に際に呟いた恨み言も、男がした酷い仕打ちも、孫に残された澱んだ血のことも」
真理子は右手首を左手で強く握った。
「おっと、俺を燃やそうとしても無駄だぜ。俺は鍛え方が違うからな」
寺田は、マリコをよけて、真理子に近づいた。
「あんたは、花岡マリコが来たのを知っていた。今は便利だからな。ストーカー対策も万全だったろう。自分の家へ訪問者があると、画像つきでメールが送られてくるシステムがあるらしいな」
「あっ」
森下は小さく叫んだ。
「あんたは、それで花岡とストーカー男が来たことを知った。花岡マリコに危険が及ぶことを恐れて、咄嗟に」
焼き殺してしまった。
「ありえないわ。証拠もない」
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