0人が本棚に入れています
本棚に追加
「別に俺はあんたが殺人犯だから逮捕しようみたいに思ってない。警察の人間じゃないんでね。そんなことは知ったことじゃないんだ。ただ、あんたみたいな自然発火人間がいると、危なっかしくてね」
「どうするつもりだ、寺田」
「ここまで来たんだ、やるしかねえだろ」
寺田は、ゆっくり包帯をほどいた。髪の毛は逆立ったままだ。
「あんたは焼くばっかりで、焼かれたことがないんだろうな。焼かれるってのは恐ろしいぞ。地獄の苦しみだ・・・」
包帯の下が露になった。焼け爛れた皮膚は赤黒く、両目は見開いた状態で瞼がない。眼球は白く濁り、ぐらぐら動くがどこも見ていない。真理子は言葉を失った。
「俺もあんたと同じさ。一族の澱も持って生まれた。だが、修行を積んで今ここにいる。何とか生きていく方法はある」
真理子はがたがたと全身が震えた。
「俺が今用があるのは、芳本真理子、あんたじゃない。その後ろにいる、双子の母親だ」
寺田は、ぐいと真理子の喉元に右手をかけ
た。真理子は苦しさに顔を歪める。
「ああ、お母さん!」
「なんだと」
真理子の背後に、鏡に映したようなそっくりの二人の女が現れた。ぼんやりと青白くひかっている。
「亜由子! 麻由子!」
浦河が白い粉を吐きながら叫んだ。
「なるほどね」
寺田は全身汗だくになりながら、にやりと笑った。
「おい、森下! 俺はこの双子の母親を成仏させるが、その前にやることが一つあるらしい。こっちに来い!」
「どうするつもりだ!」
革靴の音を響かせて、森下は教壇を離れた。その瞬間。
「うわああああああ」
背後から強烈な叫び声が聞こえた。浦河だ。
「また燃え出したぞ! 消火器! おい、寺田! どうなってんだ!」
消火器など手にする間もなく、浦河は轟々と青い炎に巻かれて転がった。不思議なのは、カーテンや壁には引火しないことだ。
程なくして、青い炎が消える頃には、黒い塊だけがそこに転がっていた。
「なんてことだ・・・」
「さて、満足したかな」
寺田が真理子の喉から手を離すと、双子の母親は互いを見つめ、無表情で頷くと、青い炎をまとって天へと向かった。
「お母さん!」
「お母さん!」
真理子とマリコは、声の限り母たちの向かう方角へ叫んだ。母の姿が天井にするりと消えると、真理子は座り込んだ。
最初のコメントを投稿しよう!