第1話

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「私・・・私、ずっと、マリコに押し付けてたんです。悪いもの、全部。人体発火も、マリコがやったように見せかけて」 「真理子、それ以上何も言わないで」 「マリコ・・・」 「私は願ったの。真理子が、過去を忘れて、本当に幸せになれるように。私のことなんて忘れて構わない。心から、そう思った。私が悪いことにして、それで真理子が救われていたなら・・・」  寺田はゆらりとマリコに向き直った。肩で息をしている。顎から汗が滴った。 「そうもいかない。あんたは、他人の負まで背負う必要はない。あんたは、芳本真理子に自分を投影して満足したような気になっていただけだ。あんたの幸せとやらは、あんたが自分で経験しないといけない。でなけりゃ、あんたたちの母親みたいなことを繰り返すぞ」  寺田は、両目に包帯を巻きなおすと、ふらついた足取りで講堂を出ようとした。 「おい寺田! 浦河教授は一体・・・」 「あんなスケベジジイは、遅かれ早かれ殺されていたんだよ。黙ってあの二人を村へ帰してやれ。人体発火現象は、オバケの呪いとでもしておけ」  結局、人体発火現象の出火の原因は掴めず、静電気による事故と処理された。その後にわかったのは、浦河教授のDNAと芳本真理子、花岡マリコのDNAが一致し、親子関係が認められたことだ。 「本当にスケベジジイだったんだな」  海沿いの小さな居酒屋は、今日も薄暗がりの中営業中である。 「芳本の父親、浦河教授、双子の母親は、性的関係にあったわけか」 「ああ。恐らく、双子の母親は望まない形での交際だったのだろうな。芳本真理子の父親を生きたまま焼いたのは、二人の祖母だ。芳本も、花岡も、自分の父親が燃えた時、自分が燃やしたと思っただろう。死ねばいいと思っていた人間がその場で死んだら、自分を疑うだろ」 「なぜそんなに父親は嫌われていたんだ?」 「・・・俺に聞くなよ。父親が死んだ時、なぜ浦河教授がそこにいたと思う?」 「はて・・・なぜだろう」  寺田はゆっくりと確かめるように冷奴を口に運ぶ。酒は飲めないと言いながら、小さなグラスのビールをちびちび舐めている。 「さあな」  含み笑いをして、外を眺めるような仕草をする。 「父親が死んだ時、祖母は花岡マリコしか引き取れなかった。芳本は、父親の祖父母宅へ引き取られたからな。それでも二人はよく会っていたようだ。俺に訴えてきたのは、二人のばあさんだ」
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