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はやる気持ちをおさえながら、抄に指定された店へ向かった。
どうして今になって、会おうなんて言ってくれるんだろう。
準は、中学の頃に想いを馳せる。
抄はいつもみんなの真ん中にいて、どうしたって二人きりになんてなれなかったけれど、一度だけ帰り道で二人になった時があった。
「なあ、コロッケ食ってかない?」
抄は、そう言いながら準の袖をクイと引いた。
「あ、はい」
慌てて財布を出そうとすると「いいよ」と制された。
肉屋であげたてのコロッケを二つ買って、二人で食べた。
「うめえ!」
抄が、嬉しそうにそれを頬張るのを準は、幸せな気持ちで眺めた。
「準も熱いうちに食べろって」
「あ、はい」
緊張で味なんてあまりわからなかったけれど、その時間が準にとっては、生涯忘れられないほどの思い出になった。
「ごちそうさまでした」
ぺこりと頭を下げると「準は、礼儀正しいよな」と抄は笑って頭を撫でてくれた。
それ以外、二人だけの思い出なんてなにも、なかった。
けれど、その日からじわじわと準の心の中で抄の存在は大きくなるばかりで、高校三年間も彼女すら作らずに過ごしてしまった。
抄さん、変わったかな…
少し緊張して店のドアをあけた。
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