別れ

7/8
前へ
/55ページ
次へ
「なに言ってんだよ」 抄は、笑って準を見た。強く真剣な準のまなざしが抄の心にささってくる。 もちろん、心あたりがないわけではなかった。 「悟史くんのことか」 抄は、ぽつりと言うと、もう一度カップを持ち上げて少し冷めたコーヒーを飲んだ。 「抄さん、俺…」 準は、顔を上げる。そうしていないと涙が零れそうだった。 「ごめんな、準」 抄は、なにも言い訳しようとしなかった。 「うん。わかってたから」 準は、ポケットから抄の部屋の鍵を取り出し、テーブルに置く。 「ほんとうに。ごめん」 抄は、頭を下げて、そして準を見た。 「俺は、ろくでもない男だ」 「やめてよ、そんな風に言うの」 準は、無理矢理に笑顔を作る。 「じゃあ」 立ち上がって抄に背中を向けたとたん涙が溢れだした。 「準!もう行くのか?」 その声に応えずに早足で店を出る。 準の心を映すように街は、ぽつりぽつりと泣き始めていた。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加