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「なに言ってんだよ」
抄は、笑って準を見た。強く真剣な準のまなざしが抄の心にささってくる。
もちろん、心あたりがないわけではなかった。
「悟史くんのことか」
抄は、ぽつりと言うと、もう一度カップを持ち上げて少し冷めたコーヒーを飲んだ。
「抄さん、俺…」
準は、顔を上げる。そうしていないと涙が零れそうだった。
「ごめんな、準」
抄は、なにも言い訳しようとしなかった。
「うん。わかってたから」
準は、ポケットから抄の部屋の鍵を取り出し、テーブルに置く。
「ほんとうに。ごめん」
抄は、頭を下げて、そして準を見た。
「俺は、ろくでもない男だ」
「やめてよ、そんな風に言うの」
準は、無理矢理に笑顔を作る。
「じゃあ」
立ち上がって抄に背中を向けたとたん涙が溢れだした。
「準!もう行くのか?」
その声に応えずに早足で店を出る。
準の心を映すように街は、ぽつりぽつりと泣き始めていた。
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