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潮風と、海鳥。
誰もいない海岸の、崖上。
意味も意図もなく。
ただ。
心許ない高さの手すりから、体を乗り出し。
波が岩肌で砕ける様を見ていた。
現実感のない高さ。街の喧騒を忘れさせる、波と風と鳥の鳴き声。
何かわからないモノに意識を捕らわれ、その存在に気がつかなかった。
「…死にたいのか?」
声と同時に腕を引かれ。
慣性のままに体を振り向けば。
見知らぬ男が。
諫めるような険しい顔で、こちらを見ていた。
「…どちら様?」
他に思いつく言葉がなくて。
しかしその台詞に、男は盛大なため息を吐いて見せた。
「…俺が誰かなどということは問題ではない。
こんな強風の日に、こんな崖っぷちで身を乗り出して、君は何をしているのだ。
…何度も体を風に煽られていた。
下手をすれば落ちてしまいそうに見えるほどに」
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