第1話

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   潮風と、海鳥。 誰もいない海岸の、崖上。  意味も意図もなく。 ただ。 心許ない高さの手すりから、体を乗り出し。 波が岩肌で砕ける様を見ていた。  現実感のない高さ。街の喧騒を忘れさせる、波と風と鳥の鳴き声。  何かわからないモノに意識を捕らわれ、その存在に気がつかなかった。 「…死にたいのか?」  声と同時に腕を引かれ。 慣性のままに体を振り向けば。  見知らぬ男が。 諫めるような険しい顔で、こちらを見ていた。 「…どちら様?」  他に思いつく言葉がなくて。 しかしその台詞に、男は盛大なため息を吐いて見せた。 「…俺が誰かなどということは問題ではない。 こんな強風の日に、こんな崖っぷちで身を乗り出して、君は何をしているのだ。 …何度も体を風に煽られていた。 下手をすれば落ちてしまいそうに見えるほどに」  
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