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なるほど。
この男には私が自殺願望者に見えて、躊躇っているようだから止めるべく腕を掴んだワケだ。
おそらくは善人なのだろう。
思って。
私は一応ながらも礼を言おうと考えた。
「どうもあり「先を越されては毒気を抜かれる。
出来るなら、俺の後にしてもらえないか」
「………………」
こちらの言葉を遮る、男のまさかの発言に。
私は言葉を失った。
一見、そういうタイプの男には見えないのだが、思って首を傾げると。
「今日を逃すとまた1年、グダグダと同じ日々を過ごしてしまいそうなのだ。
今日こそは決行したい。
だから今、…このチャンスを譲ってくれ」
男の手は、いつの間にか私の両肩を掴んでおり。
彼の真剣な目が、射抜くような力強さで私を見ていた。
「参考までに、自殺の理由を伺ってもいいですか?」
訊ねると。
彼は表情を歪め、目を伏せた。
潮風が、男の。癖のある短い髪を、狂ったように踊らせていた。
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