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「ねーぇ、一緒に遊ぼう?」
神社の先まで聞こえるような大きい声で、名前も知らないあの子を呼ぶ。
聞こえていないはずはない。
だけどあの子は、その場から動かず黙ったままだ。
もしかして、名前を呼ばなかったから、自分の事だと思っていない・・・とか?
そんな考えが頭を過り、もう一度大きな声であの子を遊びに誘う。
「ねぇってばー!
神社の傍にいる女の子ー!!」
すると彼女は小さく頭を振り、辺りを見回しているようだ。
ようやく彼女は、自分が僕に呼ばれたのだと気付いたのかもしれない。
しかし・・・。
頭を振った彼女は少しだけその場から動いたものの、僕の呼び掛けには応答してくれなかった。
地面に点在する白い花を摘み、左手がいっぱいになってもまだシロツメクサを摘み続けている。
「何だよ~。
せっかく俊哉が遊ぼうって言ってるのに、ねぇ?」
そう言って裕太は、頬を膨らませて苛立ちを見せた。
それを見た啓太は、兄さんを真似して同じように頬を膨らませる。
「まあまあ、怒るなって。
もしかしたら、滑り台で遊びたい気分じゃなかったのかもしれないし・・・。」
自分の呼び掛けが無視された。
その事が少し恥ずかしかったから・・・。
とっさに僕は、呼び掛けを無視したあの子を擁護していた。
だけど、本当はそうじゃない。
僕が呼んでも応えてくれなかった事が悲しくて、もうあの子に声を掛けられないと思ってしまったんだ。
意地悪な態度をとったあの日。
あんな事をしなければ良かったと、後悔の念が押し寄せてくる。
「なぁ、・・・そろそろ別の場所で遊ぼう。
滑り台、もう飽きちゃったし。」
そう言って僕は、先頭を切ってスロープを滑り降りた。
それに続いて、他の3人もスロープを滑り降りてくる。
再び、ちらりとあの子の方に視線を向けた。
しかしあの子はまだ、黙って花を摘み続けているだけ・・・。
「行こう・・・。」
自転車に跨り、公園を後にする。
そして3人も、僕の後に続いて自転車をこぎ始めた。
これからどこに行こう・・・。
次の行先なんて、決めていなかったもの。
いつもの遊び場を離れ、僕は近所の知っている道をランダムに走った。
そして行きついた先は、あの日あの子がいた庭の前だった。
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