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――― 「俊哉、お出掛けするよ!」 珍しくお母さんが、僕とお兄ちゃんを電車に乗せてくれた。 その行き先は小樽。 僕が住んでいる町から電車に乗ってずーっと行った所にある海の見える街だ。 僕が住む町の駅を出発して、いくつものトンネルを抜けた。 そしてそのトンネルが途切れた時、車窓の外に広がる景色は・・・海!! 「お母さん!僕、海で泳ぎたい!」 目を輝かせそうお母さんに強請ってみたが、お母さんは頭を振り僕に謝った。 「ごめんね。今日は水着を持ってきてないの。 今度お父さんが休みの時、車で海に連れてってもらおうね。」 「えーっ!じゃあ、パンツで泳ぐ!」 「何馬鹿な事言ってんの・・・。 悪いけど、今日は諦めて。 その代わり、海よりももっといい所に連れて行ってあげるから。」 その言葉に宥められ、僕は黙って海を見つめていた。 蘭島や塩谷の海水浴場には、沢山の人が集まっている。 こんな時、アヤみたいに水泳教室に通ってたら、きっと浮き輪なんか使わなくてもカッコ良く泳げるんだろうな・・・。 そんな事を思いながら、車窓にへばり付き海を眺め続ける。 海と山に挟まれた、僕の住む町がある『後志管内』。 この地域の中でも、あの町は山に面している方だったから。 近くにあるのになかなか来れない『海』の景色を、僕はしっかりと目に焼き付けておいた。 帰ったら、今日の事を絵日記に書こう。 だから今、しっかりとこの景色の様子を観察しておかなくちゃ・・・。 僕たちを乗せた列車は、海沿いをずっと走っていく。 そして少し内陸に入り海が見えなくなった頃、ようやく終点の小樽駅に着いた。 小樽駅のホームには、真っ黒で大きな『SL』が停まっていた。 この機関車は、夏休み中この小樽に遊びに来た人のために特別に走らせているんだって。 そう、お兄ちゃんが教えてくれた。 せっかくだから、駅員さんに機関車の前で記念写真を撮ってもらった。 お母さんとお兄ちゃんと、3人で。 「俊哉。せっかくだから、自由研究はSLについて調べてみたら? 写真も撮ったし、お友達にもきっと自慢できるよ。」 「うん!そうする!」
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