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『どんぐり公園』は、僕の家から近い神社の隣にある公園。 カラフルな固定遊具が沢山あって、滑り台は僕らの遊びの基地だった。 そして、いつもここに集まる僕の友達は・・・。 「あっ、俊哉。遅かったね。」 滑り台の上で手を振っているのは、隣のクラスの『純』だ。 気が強くて生意気だけど、僕たち友達に対しては優しい。 そして家が近所でお金持ちだから、いつも全員分のおやつを家から持ってきてくれる。 「はい。今日はチョコチップクッキーだよ。」 そう言って純は、僕たちに個装されたクッキーを配り始める。 個装の中には2枚のチョコチップクッキー。 気前のいい純のお母さんが、いつも遊びに行く時にお菓子を持たせてくれるんだって。 「裕太と魁人にもあげるね。 あっ、1人分余っちゃった・・・。」 そういえば、今日はあいつがいない。 いつもカッコ付けてる気障なあいつが・・・。 「純、アヤは一緒じゃないの?」 あいつと同じクラスである純に、彼の事を尋ねる。 すると純は「うーんと・・・」と答え、彼がここに来ない理由を説明してくれた。 「アヤ、新しい習い事を始めたんだって。 今度はプールに行くって言ってたよ。」 水泳教室・・・か。 やっぱりお坊ちゃまは、習い事で忙しいんだな。 今日ここに来ていない『アヤ』。 本名は『絢斗』といって、この町一番の旅館である『豊川苑』の息子だった。 彼は幼稚園の頃から、英語と体操も習いに行ってるのだと聞いていた。 あいつは決して悪いやつじゃないけど、時々ぽろりと見せる『お坊ちゃま』な一面に妬ましさを隠せず、つい冷たく当たってしまう事もしばしばあったのだ。 「ふぅん・・・。 女みたいな見た目だから、泳げるようになってカッコ良くなろうとでも思ってんのかな。」 本当は、僕だって習い事をしたい。 だけど、頭のいいお兄ちゃんが英語を習い始めたせいで、僕は習い事をさせてもらえなかったのだ。 お父さんやお母さんにも、「まだ小さいから」、「俊哉にはまだ早い」って言われて・・・。 僕だって、もう小学生なのに。 こうやって1人で遊びに行けるし、自転車にも乗れるようになったのにさ。
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