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幅の狭い道路に三角形を描き、その3点に1人ずつ立つ。 僕は家のすぐ前に立って、最初にボールを蹴る。 純は僕の家の駐車場でもある狭い空き地の前に立ち、裕太は斜向かいにある原口のじいちゃんの家の前に立った。 「よーし、行くぞー!」 まず僕は、空き地の前にいる純にボールを回した。 そのパスを受け取った純は、すぐに裕太へとボールを回していく。 三角形を反時計回りにぐるぐると何週もさせ、僕たちはトイレに行っているアヤの事など忘れて、サッカーに夢中になっていた。 「はい、裕太!行くよー!」 テンションが上がり、勢いよくボールを蹴った純。 しかし、この時少しだけコントロールを誤ってしまったようだ。 蹴り上げられたボールは裕太の横をスルーし、『ガシャン』という音を立てて地面に転がった。 「あっ・・・!!」 思わず僕たちは、ボールが転がった方へと走った。 ボールがぶつかったのは、原口のじいちゃんの庭にあるフェンス。 そしてその先には、今日もあの子の姿があった。 フェンス越しに、僕たちを睨んでいる彼女。 しかし今日の彼女は、あの広い庭の中にたった1人でいた。 「あっ・・・、ごめんね・・・。」 ボールを拾いに行った裕太が、フェンス越しのまま彼女に謝る。 しかしあの子は、いつものようにプイッと視線を逸らすだけだった。 悪いのは確かに僕たちだ。 だけど、せっかく裕太が「ごめんね」って言ったのに・・・。 あの子が取った態度が、少し気に喰わなかった。 ダメだとわかっているのに、僕の体は勝手に動き出す。 「ねぇ。」 フェンスの上から手を伸ばし、フェンスの傍にいたあの子の肩をぐいっと掴む。 そしてそのまま、僕は彼女にニッコリと笑って見せた。 「何してんの?」 話し掛けたって、きっと何も応えてはくれないだろう。 だけど、咄嗟に肩を掴んでしまったから・・・。 どうにかして、彼女をこの庭から連れ出したくなったんだ。 予想通り、あの子は僕の取った行動に不快感を顕にしていた。 そして黙ったまま、僕の手を振り払うように体を揺らす。
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