【3】

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「一緒に遊ぼうよ?」 もう一度、彼女を遊びに引き入れようと声を掛けてみる。 しかし、何度声を掛けてみても結果は同じだった。 「・・・ねぇ、あれ・・・。」 後ろにいた裕太が、フェンスの中央にある何かを指差している。 僕は裕太の指が差す先に視線を向け、そこに何があるのかを確認した。 これは・・・、鍵・・・? フェンスには、内側から鍵が掛けられていた。 しかしその鍵は簡易的な扉止めのようなもので、手の小さい純であれば、フェンスの隙間から鍵をあけられるんじゃないかと僕は確信した。 「純・・・、開けて。」 僕がそう言うと、純は少し迷いながらもフェンスに手を掛け、策の隙間かに手を差し込んで扉止めを開錠してしまった。 そんな僕たちの様子を見て、あの子は不安気な表情を浮かべたままその場で固まっている。 ちょっと強引だったのかもしれない。 だけど、どうしても知りたかったんだ。 ・・・君の、名前は・・・? だけどいつも、肝心な時に何も言えなかった。 「開いたよ・・・。」 少し興奮しながら、純がフェンスから手を離す。 すると、さっきまで僕たちとあの子を隔てていた鉄の柵がなくなり、遮るもののない状態で彼女の姿が目の前に現れる。 肩に乗せた手はそのまま。 ゆっくりと力を入れ、僕たちの方に引っ張ってみる。 一歩、一歩、彼女の足が僕の方に近付く。 そしてとうとう、あの子は初めてあの庭から出てきてくれたんだ。 背が高い。 そして、色白でぷっくりとしたほっぺたがとても可愛い子。 緊張して、僕は肩に乗せた手を離す事ができずにいた。 そして彼女も、未だに震えたままただ固まっているだけ・・・。 「ねぇ、名前は・・・?」 恐がらせないように、優しい口調で尋ねてみる。 しかし彼女の反応は、ゆっくりと頭を振り視線を逸らすだけ。 「ごめんね・・・、恐かった? でも・・・、僕たち、君と一緒に遊びたかっただけなんだよ・・・。」 この気持ちは、ちゃんと通じてくれるのだろうか。 本当に、恐がらせるつもりはなかったんだ・・・。
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