【3】

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顔を覗き込んだ僕の頬に、一滴の涙がぽたりと落ちる。 ・・・とうとう彼女を、泣かせてしまったんだ。 「あっ・・・、えっと・・・。」 どうしよう。 こんな思いをさせるつもりじゃなかったのに・・・。 ただ一言、「ごめん」って言いたかったんだ。 「・・・ぁい。」 「えっ・・・?」 気のせいなんかじゃない。 微かに聞こえた、彼女の声。 涙に埋もれて言葉にならないその声を、もう一度聞きたいと思った。 「ごめん・・・、聞こえなかったよ。 もう一度話してくれるかな?」 優しい口調で、そう彼女に嘆願する。 少しの間、沈黙が訪れた。 しかし、先に反応を示したのは・・・彼女だ。 「恐いの・・・。」 「・・・僕たちが・・・?」 「ううん・・・、みんな・・・。」 「えっ・・・?」 「男の子・・・。」 ああ・・・、そうだったのか。 この子はいつも、『女の子』とばかり遊んでいた。 そしてこの庭に『男の子』を入れたがらなかったのも、きっとそういう理由があったからなんだ。 何も知らずに、自分の気持ちだけ伝えようとしていた。 だけど彼女は、男の子が嫌いなのにも関わらず、あの日僕と喋ってくれた・・・。 「そうだったんだ・・・。 何も知らずに何回も声を掛けてごめん。」 そう彼女に告げて、僕はその場に立ち上がった。 そして、静かに彼女に右掌を差し出す。 「・・・?」 不思議そうに、僕の差し出した掌を見つめる彼女。 彼女の視線を確認した僕は、差し出した右手の形を変え、小指だけを立てて見せた。 「約束するよ。」 ニッコリと笑顔を作り、彼女の反応を待つ。 彼女は不可解そうな表情を浮かべたまま、小さく首を傾げた。 差し出した小指は、約束の印。 上手く言葉にできないけど、これが僕の精一杯の気持ちだから・・・。 「もう恐い思いはさせない。 これからずっと、僕が君を護ってあげるから。」 ああ・・・、我ながら気障でカッコ付けたセリフだ。 だけど、この言葉は嘘じゃない。 学校が休みの時しか会えないけど、僕はこの町で彼女の事を護っていく。 そしていつか・・・、一緒に遊べる日がくればいいな。
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