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「なぁ、明日から夏休みだろ? 魁人はおばあちゃん家に行くって言ってたもんな。 裕太と純は、どこかに行くの?」 滑り台によじ登りながら、明日からの夏休みの予定を2人に尋ねる。 魁人は函館にある祖父母の家に行くと言っていた。 しかし裕太と純は、特に何も言っていなかったのだ。 もちろん僕も、特に予定はない。 本当は、札幌に『家紋ライダーショー』を見に行きたかったんだけど・・・。 「僕はずっと家にいるよ。 パパもママも、お仕事が忙しいって言ってたから。」 裕太のその発言に、純も同調して頷く。 という事は、夏休み中もきっと同じメンバーでここに集まる事になるのだろう。 「じゃあ、ラジオ体操も一緒に行こう。 僕ん家の裏のゲートボール場。 あそこでもラジオ体操をやるって、お父さんが言ってたからさ。」 僕の家の裏には、広い空地がある。 そしてその半分は、おじいちゃんやおばあちゃんが集まるゲートボール場になっていた。 「そうだね。そうしよう。 ラジオ体操の時に遊ぶ時間を決めて、それまでに宿題を終わらせようよ。」 裕太と純の賛同によって、毎朝6時にゲートボール場へ集合する事が決まった。 学校から貰った、日付の入ったプリント類。 日々のノルマは、国語と算数のワークが1枚ずつと、朝顔の観察日記。 あとは、読書感想文と自由研究、5日分ある絵日記をどう振り分けるかが問題だ。 北海道の夏休みは、東京や大阪よりも短いんだって。 25日しかないこの夏休みで、これだけ沢山の宿題を終わらすのは、本当に大変なのにな。 そう打ち合わせをしながら、滑り台で遊ぶ僕たち4人。 滑り台の上から見える景色は、隣の神社と砂利の敷かれた駐車場。 そしてその脇には、濃い緑色の夏草と白くて可愛らしいシロツメクサが生えている。 「そういやさぁ、あの子、この夏休みも来るのかな?」 ふと純が、俺にそう尋ねる。 「わかんない。 原口のばあちゃん、何も言ってなかったけど・・・。」 純の言う『あの子』。 それは、僕の家の斜向かいに住む『原口のばあちゃん』の孫娘の事だ。 幼稚園や学校が長期休暇に入った時だけこの町にやってくる。 背が高くてぽっちゃりとした体形のその女の子は、きっと僕よりもお姉さんだと思っていた。 だけど・・・。
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