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「あの子、僕らと同じ1年生なんだってね。 原口のばあちゃんが言ってたよ。」 そうだ。 裕太のおばあちゃんは、原口のばあちゃんとお友達なんだっけ。 「なぁ、裕太。 あの女の子、何て名前なの?」 純に貰ったクッキーをかじりながら、隣にいる裕太に問い掛ける。 しかし裕太は、「わかんない」と言ってそのまま滑り台のスロープを滑り下りていった。 「だってさ、あの子、何も喋らないんだよ。 ちょっと顔を合わせても、すぐばあちゃんの後ろに隠れちゃってさ。」 やっぱりあの子は恥ずかしがり屋なのかな。 でも、何も喋らないっていうのは違う。 「そうなの? 僕ね、この前少しだけ喋ったよ。」 鼻高々に、あの子と喋った事があると自慢する僕。 だけど・・・、あの子と話したのは、実はたったの1回きり。 偶然庭にいたあの子に、思わず声を掛けてしまったんだ。 「何で俊哉だけ? あっ!・・・もしかして、あの子、俊哉の事が好きなんじゃない?」 ニヤニヤ笑みを浮かべながら、魁人が僕の事を冷やかした。 そして純も、そんな魁人に便乗してこう囃し立てる。 「俊哉、あの子をお嫁さんにしちゃえばいいんだ。 家も近いし、ラブラブだよねぇ。」 「なっ・・・!!何言ってんだよ?」 「あっ、赤くなった! もしかして俊哉も、あの子の事好きなんじゃないの?」 ケラケラ笑いながら、純も滑り台を下りていく。 思わず自分のほっぺたに触ってみると、いつもより少しだけ温かい気がした。 「おかしな事言うなよ! あんな馬鹿な子、好きになる訳ないだろっ!?」 そうだよ。 あの子はちょっと変わってる。 『野菜』じゃないのに、『野菜』だって言うんだから。 そう、あれは小学校に入学する少し前の事だったはず。 あの庭の近所には、少しずつ蕗の薹が顔を出していたんだ。
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