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――― あの子と初めて話したのは、今年の4月の初め頃。 斜向かいの『原口のばあちゃん』の家には、大きくて立派な庭がある。 そしてそこには、近所に住む女の子たちがよく出入りしていた。 だけど、あの庭に入れるのは、幼稚園や学校が休みの時だけ。 しかもあの庭には、いつも『女の子』しかいなかったんだ。 近所の女の子たちに囲まれて、嬉しそうな笑顔を見せていたあの子。 あの子がいる時しか、あの庭の門は子どもたちのために開かれない。 お母さんが言ってた。 「あの女の子は、原口さんのお孫さんなのよ」って。 いつもお休みの時しか姿を見せないあの子は、この町からずっと遠い所に住んでいるらしい。 そして、あの子が原口のばあちゃんの家に来ている時、あの子のお父さんとお母さんは一生懸命お仕事を頑張っているって事も教えてもらった。 女の子たちと遊ぶあの子の事。 そして、お休みの日しか開かれないあの庭の事がとても気になった。 だからあの日、僕は1人であの庭の門の前に立っていたんだ。 一緒に遊ぶ女の子は、あの庭の向かいにある公宅に住む希依と、その友達で1つ年下の澄香。 たしか希依は、今度僕と同じ小学校に通うはずだ。 女の子たちは石で何かを叩いていた。 薄緑色の、花のようなもの・・・。 その楽しげな会話に、こっそり聞き耳を立てる。 「はい、もうすぐご飯ができますからね。」 「お母さん、今日のご飯、なぁに?」 「ママ、お腹しゅきまちた!」 「今日は野菜のサラダと、雪で作った冷たいお豆腐ですよぉ。」 どうやら年下の澄香が赤ちゃん役で、希依がお姉さんの役ってところだろう。 そしてお母さん役のあの子は、石を包丁に見立てて料理を作っていた。 庭の門に取り付けられたフェンス越しに、あの子が料理を作る様子を伺う。 石で叩き潰しているのは、きっと蕗の薹だろう。 そしてその横には、庭の至る所に残っていた雪を丸め、豆腐に見立てたものが置かれていた。 「今日のお野菜は、採れたてで美味しいのよ。 残さないで、いっぱい食べてね。」 そう言ってあの子は、木の棒で地面に丸を描き、その上に叩き潰した蕗の薹をばら撒いた。 思わず、その様子に笑ってしまった僕がいた。
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