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「それ、野菜じゃないよ。」 思わず口にしてしまった言葉。 その言葉に反応し、あの子が僕の方を振り向いた。 やってしまった・・・。 そう思った時には、もう遅い。 希依と澄香は、むっとした表情で俺の顔を睨んでいる。 そして彼女たちと同じく、あの子も俺の顔をじっと見つめていた。 フェンス越しに睨み合う僕ら。 そしてあの子は、手に持っていた石をポイッと投げ捨て、庭の門の向こうにいた僕に近付いてきた。 「いいの。お庭の中では野菜の代わりなの!」 少し前までの笑顔は、もうここにはなかった。 あと少しで崩れてしまいそうな、悲しげな表情。 腹を立て反論してきたあの子の声は、興奮と緊張で少し震えていたようにも感じた。 初めて聞いた、あの子の声。 女の子らしくて可愛いその声を、僕はもっと聞きたいと思った。 「変なの。そんなの食べても美味しくないのに。」 つい、からかうような言葉が出てしまう。 本当は、僕だって・・・。 「うるさいなぁ。あっち行ってよ!」 頬を膨らませ、あの子は声を荒げて怒っている。 そして希依たちもそれに加勢し、僕に「あっち行って」、「来ないで」と罵声を浴びせた。 そう言われると反論したくなるのが、天邪鬼な僕だ。 それに僕だって、この庭に入ってみたかったから・・・。 「やだよ。ねぇ、僕もお庭に入れてよ。」 こんな状況じゃ、入れてもらえない事くらい僕にだってわかる。 でも、広いこの庭の中で遊ぶ希依たちが羨ましくてたまらなかったんだ。 あの子は僕の言葉を聞いて、再び僕をじっと睨んだ。 そして彼女の口から、こんな理不尽な言葉が発せられたのだ。 「やだ!男の子だから。」 そんな・・・、僕が男の子だからダメなの・・・? 僕が悪口を言ったから、きっと怒っちゃったんだ。 じゃあ、謝れば許してもらえるのかな? だけど、たった一言。 「ごめん」って言葉が出てこない。 それでも、ここで簡単に引き下がりたくはなかった。 「いいでしょ!お願い!」 口調を和らげ、強請るように嘆願した僕。 しかしあの子の答えは、頑なに変わる事はなかった。 「男の子はダメ!もう帰ってよ!」 そう言ってあの子は、シッシッと僕に向かって手の甲を向けた。 やっぱり、怒らせちゃったのがまずかったんだ・・・。
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