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仕方ない。 今日は諦めよう・・・。 そう思って僕は、何も言わずあの庭の前から立ち去った。 向かう先には自分の家。 なんだか恥ずかしくって、早くどこかに隠れたかったんだ。 「あら、俊哉。もう帰ってきたの?」 帰宅した僕に、お母さんが声を掛けてくる。 「だって、つまんないんだもん。」 そう言って僕は、ダイニングテーブルの上にあったポテトチップスの袋に手を伸ばした。 「こらっ!袋のまま食べちゃダメって、いつも言ってるでしょ。 食べ過ぎたらご飯が食べられないから、ちゃんとお皿に開けて食べなさい。」 そう言ってお母さんは僕のポテトチップスを取り上げ、その中身を少しだけ木でできたお皿に入れて渡す。 お皿の真ん中に、ぱらぱらと盛られたポテトチップス。 その量はとても少なくて、僕は正直不満だった。 「お母さん、もっとちょうだい。 僕、もうすぐ1年生だよ?」 不満げにそう言うと、お母さんは僕の方をちらりと見た。 そして少し苛立った口調で僕にこう言い返してきた。 「そうやってお菓子ばかり食べて、ちゃんとご飯を食べないから。 だから俊哉は、1年生になってもひょろひょろのちびっ子みたいって言われちゃうのよ。」 だって・・・。 ポテトチップスは僕の大好物だもん。 もうすぐ小学校に行くんだから、お兄ちゃんと同じくらい食べたいのに。 だけどお母さんは、僕はダメって言うんだ。 「大丈夫だよ。 今日の晩ご飯、絶対に残さないからさぁ!」 そう約束を取り付ければ、きっとお母さんもわかってくれるだろう。 じっとお母さんの顔を見つめ、反応を伺う。 「仕方ないわね・・・。」 お菓子の増量を強請る僕を見て、お母さんは溜め息を吐く。 そして、輪ゴムで留めかけたポテトチップスの袋を再び開け、僕の持っていたお皿にポテトチップスを追加してくれた。 「ありがとう!」 そう僕がお礼を言うと、お母さんはにっこりと笑ってくれた。 「その代わり、ちゃんとご飯も食べてちょうだい。 お母さんとの約束よ?」 「うん!わかったよ!」
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