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夏休みに入って、今日で3日目。
僕は裕太や純と約束した通り、裏の空き地で行われるラジオ体操に参加していた。
朝6時。
次々と近所の人たちが空き地に集まってくる。
この地域には、おじいちゃん、おばあちゃんが多く住んでいた。
おじいちゃんたちは誰かと顔を合わせる度に「おはようございます」と挨拶を交わし、ゲートボール場のベンチに座って世間話を始める。
そして今日は、僕と同じ年の新参者も来ていた。
「原口さん、おはようございます。
お孫さんですか?」
そう声を掛けたのは、僕の家の隣に住む山内のおじいさん。
山内のおじいさんはこの空き地で行われるゲートボールの常連で、この町内会の会長さんでもある。
いつも皺々の顔は、ニッコリを笑った事によって更に皺くちゃになった。
そしてその視線の先には、先日噂していた『あの子』の姿があったのだ。
原口のじいちゃんと手を繋いで現れたあの子。
今のあの子の表情は、あの日僕に向けた怒り顔とは全く違う優しい笑顔。
ニコニコした明るい表情を浮かべ、山内のおじいさんに「おはようございます」と挨拶していた。
そして、その後ろには原口のばあちゃんの姿と・・・、小さな女の子。
「おねーちゃ、おねーちゃ!」
小さな女の子はあの子の傍に歩み寄り、背後から彼女の服を引っ張った。
そしてあの子は、小さい妹の頭を撫でながらニッコリと笑って見せる。
「莉那ちゃん、どうしたの?」
「体操、するの?」
「うん。もうちょっとで始まるよ。」
そう言ってあの子は、辺りをきょろきょろと見回した。
そして、ベンチに置かれていたラジオの機械を見つけ、その近くに妹を誘導していく。
「ほら、ここから声がするでしょ?
もう少ししたら音楽が流れて、ラジオ体操が始まるんだ。」
そう説明すると、あの子の妹はニッコリと笑い、手を叩いて喜んでいた。
「うん!莉奈もやる!」
「そうそう!お姉ちゃんと一緒に体操しようね!」
こんな早朝から笑顔を振りまき、可愛い妹の相手をするあの子。
・・・あの日は怒らせちゃったけど、本当はとても優しくて愛想の良い子なのかもしれない。
やっぱり、一緒に遊んでみたいな。
もう1回だけ、声を掛けてみようか・・・?
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