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そう思って、あの子に近付こうと一歩踏み出したその時だった。
「俊哉、おはよう!」
背後から名前を呼ばれ、思わず振り返る。
するとそこには、眠そうな顔をした裕太が立っていた。
「ああ・・・、おはよう。」
挨拶を交わし、彼の周りを見る。
今日は、裕太だけしかいない。
純はまだ、ここに来ていないのかな?
「あれ?純は?」
そう裕太に尋ねると、彼は欠伸をしながら頭を振り、残念そうにこう答えた。
「純はアヤと一緒にどんぐり公園でラジオ体操をするんだって。」
「はぁ?何で?」
「よくわかんないけど、お母さんにそう言われたんだってさ。」
どうしてまた、ここでアヤの名前が出てくるんだよ・・・。
だけど、純のお母さんがそう言うなら仕方ない。
純の家はどんぐり公園のすぐ傍だし、アヤの家もそっちの方が近いから・・・。
「でも、お昼から遊ぶ時は一緒だよ?
今日もお昼ご飯の後、どんぐり公園に集まろう。」
そう裕太に約束を取り付け、再びあの子の方を見る。
しかしラジオの置かれたベンチの前にあの子の姿はなく、山内のおじいさんがラジオのボリュームを調整しているだけだった。
「あれ・・・?」
妹と共に姿を消したあの子を捜し、辺りをきょろきょろと見回す。
するとあの子は、いつの間にかこの空き地に来ていた希依と合流し、楽しそうにお喋りしていた。
今近付いたら、あの子だけじゃなく希依にも嫌な顔をされるかも・・・。
何となく怖気づいてしまい、僕はあの子に声を掛ける事ができなくなってしまった。
隣にいる裕太に気付かれないよう、こっそりと小さな溜め息を吐く。
そうこうしているうちに、ベンチに置かれたラジオからは『ラジオ体操の歌』が流れ始めていた。
「さぁ、やるかぁ~!」
気合を入れ直し、周りにいる人たちと間隔を取りながらポジションを決める。
僕や裕太が並んだのは、ラジオ体操をする集団の前方。
そして後方には、あの子やその妹、希依が並び、同じ空き地の中で一緒にラジオ体操を行っていた。
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