消えた色。

1/1
前へ
/15ページ
次へ

消えた色。

群青色の空にぶら下がる三日月が逆さまになって、いつからか夜は、またとない色を手に入れた。 昼と夜の境目が濃くなって、反比例するように、僕と世界の境目が、薄くなる。 闇の中の光は、強い。 強い光が闇を全て包み込んだ後、僕には光の強さが分からなくなった。 僕は何を見ていたのかな? 生まれ落ちた感情は僕を利己的にして、大切なものまでわからなくしていた。 僕は何を間違ったのかな? 君さえいれば他には何も、いらなかったはずなのに。 「都会の夜の雨が好き」 彼女の言葉を思い出す。 君がいなくなる夜はいつも、雨が降る気がする。 窓を伝う雨はまたとない色を屈折させて、僕の部屋を群青色に染める。 二度と君の来る事の無い、君の物の並ぶ部屋を。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加