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雨で濡れた体を引きずり、町の外れにあるアパートの扉の前に辿り着いた。
少しくたびれた外観とは異なり、扉は深く綺麗な緑色…真ん中に装飾された小さな天使の羽が…彼女はとても気に入っていた。
『ありあっ…!!
あり、あ…』
情けなく、ただ彼女の名前を呼ぶ。
ただ数回…小さく呼んだだけなのに、その美しい扉はゆっくりと開いた。
『あり、あ…っ』
扉から見えた彼女の姿を目に捉えた瞬間、僅かな意志で留めていた涙が次から次へと溢れ落ちる。
そんな僕の姿を見て、彼女は眉一つ動かすことなく口に加えていたフォークをスルッと外し…流れるような仕草で左手を首へと回す。
『可笑しいな。
兄ちゃん、今日来るなんて言ってたかな』
『ご、ごめんね…有阿…』
細く華奢な体。しかし、どこか女性の体つきとは違う…力強さを兼ねた肉体。しっとりと濡れた髪には純白のタオルがかかっていて、眼鏡の向こうから光る瞳は僕を真っ直ぐ映していた。
黒いTシャツに白いズボン。年頃の女の子が身に付けるとは思えないシルバーアクセサリー…ただ、チェーンのみの。青年と言われても気付かないような…薄幸な雰囲気を漂わせる姿はとても自分と同じ血が通っているとは思えない。
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