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『ごめんね…、兄ちゃん。ちゃんと僕が反対するべきだった。受け入れることが、イコール優しさなんて…有るわけないのに』
冷たい指でそっと目尻を触り、彼女はもう冷めてしまったお絞りを持ってリビングへと行ってしまった。
何故…、有阿が謝るの?
有阿は何も悪いことなんてしてないのに…。
『むしろ、有阿…有阿だけが俺の我が儘を聞いてくれたのに』
一年前のこと
俺は、ある男性と共に有阿の元へ行った。有阿は当時高校生で、俺と一緒に暮らしていた。
彼女に話したのは、俺がその男性と交際しているということ。そして…彼と暮らしたいというもの。
有阿には申し訳なく思いながらも、包み隠さず…自分の意志を伝えた。彼女はいつもの無表情で一言だけこう言った。
【可笑しいな】
そして彼女は、俺を蔑むことも嫌悪することもなく全てを受け入れてくれたのだ。そんな有阿に救われながら彼との同棲を始めた。
しかし、彼は…俺のことなんて愛していなかったんだ。
『…っどうしよ、また…有阿が怒っちゃう』
視界が歪み、必死にそれを堪えようとするのに…流れ出るものは止められない。
ああ…、こんなはずじゃなかったのに。
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