序章

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隔離された病室、そこで1人の子供が高熱にうなされていた。 息は荒く、うつろな瞳は定まることなく、ただ宙をさまよっていた。 防護服に身を包んだ母は、我が子の手を握り、祈ることしかできなかった。 「……何とかならないのか」 父はしぼり出すように言った。 どうして助けられないのか。 苦しむ我が子を、自分は見ていることしかできないのか。 「今まで助かった事例は幼児のみです。 小学生以上では、もう……」 医師にもなす術はなかった。 今朝がた、抗生物質の開発が進んでいるというニュースが流れた。 でも、もう遅い。 とてもじゃないが間に合わない。 感染し、発病したこの子に残された道は、苦しみながら最後の時を待つことだけ。 強く握りしめた父の手は、震えていた。
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