暖蜜姫の物語

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 昨晩現れた彼女は、僕がストーブを擦ったので現れた、ストーブの精ではなかろうか?  僕がストーブが使えない事に、ストーブ自身が嘆いて暖めに来たのだろう。  彼女が普通じゃなかった事も、  服を全て脱いだのも、  熱が上がり続けるのも、  そして、脱ぐ度に口にしていた、“僕が暖まるならそれで良い”と言う台詞も、  ストーブが家から消えた理由も、僕を暖める事が出来たから…、  どうやら僕と彼女は、初めから愛の巣で暮らしていたようだ――。  「ご親切に有り難う御座います、ストーブですね? お引き取り致します」  近所の、廃品回収の職員の声がする。  家から持ち出した記憶は無いのだが……。  引き留めようと玄関まで走るが、何故か、思い留まった。  彼女は、僕を悲しませまいと自分から別れを切り出したんだ。  暖かい思い出を僕の躯に残した儘……。  愛の巣を有り難う、ストーブ――。  『暖蜜姫の物語』―暖―
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