Not Of This World

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「あいつはシャイなんだ、それに戦場でさんざ神経張り詰めた生活を送ってきた……まだ平和ってやつの慣らしの段階なんだよ。責めないでやってくれ」 フリッツ・ベルネマンから交代したレオン・フィッツジェラルドはネクタイを締めなおし、はにかみをカメラに向かって見せる。整えられたブロンドのオールバックに安物ではあるが手入れの行き届いた背広、そして柔らかな甘いマスクと先ほどのベルネマンとは大きく違う印象だ。 「では、続いて世界を激震させた論文、"未確認正四方体物質の作用及び土着崇拝との関連性"の著者にして国内最名門、ブラック大学最年少教授のレオン・フィッツジェラルド氏にお話を伺います。よろしくお願い致します」 「ぁあ、よろしく……まず何から聞きたい?」 「願いをかなえることについてはベルネマン氏から伺ったので、"魔導"について、詳しくお聞きしたいのですが」 「ぁあ……いきなり核心ついてくるね。ま、気になるのはやっぱりキューブが人類にもたらすものだよね……」 「はい。いったいどれほどの恵みを我々に与えてくださるのか、誰もが知りたがっています」 「そうかいそうかい……ま、そうだろうね」 レオンはベルネマンと違い、どこか常に余裕を身にまとっていた。兵隊のように、何かに追い詰められていない。 「じゃあ、いいけど……これからおれが口にすることはきっと君たちには間違いなく信じられない。そして信じたくはないだろう。すべての根底を覆すことなんだよ、魔導は……ふ、ふふふ、ふふ……」 「では…………よろしくお願い致します」 「まずは結論から言おう。魔導が何か、は今の科学で解明することはできない」 「我々の叡智が追い付いていない、ということですか?」 「まさにその通り」 「魔導、ひいてはキューブが現在の科学を越える代物だと……」 「世界中の隠れ村でひた隠しにしてきていたんだぞ?やつらはおれたちみたいに、先進国民ということにあぐらをかいてバカを繰り返しているような連中とは違う……この国の人間の多くが、自分たちなら何でも手に入れることができると信じてソ連に取り分を奪われることを恐れているが……フン、悠久の民たちからすれば笑い話だろうよ。おれたちが何だというんだ。自然を壊し、既得権力のために自らのはらからまで犠牲にした大量殺人、長いものに巻かれるために子供たちの心を壊し続け……そして、何も努力しないで何かを手に入れるために努力し続けている。笑いものだ……」 「……」 「そんなものをおれたちみたいな、クソみたいな国の手の内に握らせたらどうなると思う?破滅さ。独り相撲を繰り返して、気づいたら全身バラバラだ……」 「あなたなら、キューブと魔導を扱えると?」 「すくなくとも政治屋さんや商売人よりはね」 「論文発表以来、膨大な資金を投じて世界各地からキューブをかき集めたロナルド・クランプ氏があなた方を法的に封じ込めて、キューブを取り上げようとして結局訴訟を取りやめたという話もありましたが」 「クランプがどんなに、金や権力を使ったところでキューブを使いこなすことはできないさ……どうしてだと思う?」 「なぜ……」 「キューブに認められないからだ」 「……キューブには意思があると?」 「あるよ。ただ、本当の意味で心を通わせていないと力を貸してはくれない。それじゃ、魔導も使いこなせない」 「あなたはできるのですか?」 「できるよ。見てみな」 レオンはゆっくりと立ち上がると、真後ろの壁に手を当てて自らのキューブをぎゅっと握った。 その瞬間、壁は音を立てて崩れ、建物全体がミシミシときしみ始めた。 「わ、わ!?」 「これが魔導さ」 「これはいったい……」 「キューブが貸してくれた魔導……唯一判明していることは、魔導は一度摂取すれば体内にとどまるってことさ。今みたいに放出して、巨大なエネルギーを操ることだってできる。体内の人体電解質、つまりカリウムと結合して発汗の要領でキューブが貸してくれた力を放射することができる」 「こ、これほどとは!これがあれば科学がどれほど発展するか!我がアメリカ合衆国のさらなる躍進を……」 「っと、そんなに甘くはないかな」 「ど、どういうことですか……まさかソ連がすでに!?」 「いや、それはあり得ない。考えてもみろ、この代物を自由に操れるのなら、もうとっくにここにいる全員が灰になっているはずだよ。巨大な力を見せつけたいのならばまずは、アメリカを粉々にするのが手っ取り早いだろ?」 「っ……」 「それに……だ。さっきも言ったが、キューブに認められないとその力を分け与えられることはないし、結構キューブはわがままだからね。利用してやる、なんて態度でいればまずただじゃすまない……クランプなんかは、そろそろ死ぬんじゃないかなあ……成果を横取りするために研究を妨害するあいつに訴訟を辞めさせるために、あえてキューブのありかを色々教えてやったからね……雑誌で見せびらかしていただろう?あれほどの量のキューブにバカにされたら、自分が大勢にしてきたように踏みつけにされて終わりさ」 「では……この国でキューブの力を得ているのは……」 「ああ……おれとフリッツだけだよ」 レオンは、ベルネマンのカメラの外からの睨み付けをもちろん感じていた。 ああ、わかっているさ、フリッツ。こんな驕りを続けていればいつかは、足元をすくわれると言いたいんだろう? でも、おれは叶えて見せるさ。 こいつは、間違いなく人類の歴史を書き換える…… キューブと…… おれがな。
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