Vampire State Building

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Vampire State Building

2013年6月5日、とある白髪混じりの黒髪長髪の中年と、眼鏡をかけた神経質そうな、後ろ髪三つ編みの少年のやり取り…… 「あいつらはいつから、いるのさ」 「さぁな」 中年の男はタバコの煙が少年にかからぬようにもみ消して、笑顔で椅子を回して遊んでいる。 「おれが知ったときにはもう、いた。俺の親父が知ったときもすでにいたんだろう、それより過去に会ったやつが知ったときにはすでにいただろうし……そう考えるとキリがねえ」 「……?」 「いるもんはいる、そういうことさ」 「だって、そのへんの人に吸血鬼はいるんだーって言っても誰も信じないよ。いちいち説明がいるみたい」 「そりゃ、そいつがバカだからさ。自分の頭で、ただ単に現実、吸血鬼が存在してるってだけのことを信じきれねえ。なんでかって、動物図鑑にもポケモン図鑑にも載ってねえからな」 「……」 魔導師は、おれのおやじがキューブと魔導の存在を見つけてやっと人々が信じるようになったと続けて。 「どいつもこいつも、足りねえんだよ、想像力も創造力も。てめえの小さな領域で妄想オナニーし続けてえから、安易なものに逃げ続ける。あげくの果て、妄想ですら安易な方法でモテてヤりまくりスカートめくりか、どんな敵でも簡単にぶっ倒して感謝されるか……断言するがんなものにすがってるやつは一生どうにもならねえよ」 「こことは違う世界に生まれ変わってどうこう、とか?」 「言っておくがね、ヘンドリック。おれは前世の記憶があるっていうやつと出会ったことが何度かあるが、どいつもこいつも口にするのは知ってることばかりだ。違う世界に生まれ変わるなんてできやしねえ、この世界はおれたちを閉じ込めて、おれたちを働かせて、その何億重もの積み重ねでできてるんだ……生まれ変わりすら、その範疇で行われるんだろうよ」 「じゃあ、異世界なんてものはないんだ」 「すべては現実だよ。吸血鬼も、魔導師もな」 「……」 「いつの間にか出てきて、いつの間にか人間と鉢合わせて、いわれのない恨みをお互いに募らせて、たくさん殺したんだよ。お互いにな……おれの二人の父親がそうだった。魔導師どうしでな……元々は二人とも、ただのコンプレックスまみれの人間だったんだが。いつの間にかそれがどうしようもなく膨れ上がって、とうとうおれの目の前で二人ともほとんど一緒に死んじまった。産みのおやじの方は、おれがとどめを刺したんだけどな。育てのおやじを殺そうとしたんだからよ……おれを捨てやがっておいて、よくやるぜ」 「それは、レオン・フィッツジェラルドとフリッツ・ベルネマンの話?」 「まあそんなことはどうでもいい……ただ、その場でなにかがあって、それに至るまでの積み重ねがあったってだけさ。ヘンドリック。おかあちゃんが呼んでる声がするぞ、飯が出来たみたいだ……かあちゃんや、シーモアと先に食ってろ」 「はーい。おじさんは来ないの?」 「ひとつだけやることを済ませたらすぐにいく」 ヘンドリック少年が部屋から出ていったことを確認すると、男はパソコンに向かい、何らかの文書を送信した。 「……あいつらも、この事が何やかやの積み重ねってことには……してくれねえだろうがな……パブロに送った……ロックに送った……ガラビートのオッサンに送った……猪熊のデブ豚に送った……ロシアのアル中野郎に送った……あとは……」 最後の一人に送信する前に、手を一度止めて考え込む。 相手の名前は、ミオン・ロベスピエール。知られている限り、吸血鬼の現在の長であり彼らは男と関係はあるのだが。    「……いいや、ダメだな……ミオン……お前さえいなけりゃ……おれは父親を殺すはめにならなかったんだ……ちゃんとおれを育ててくれた方を、な」 男はそのままパソコンの電源を抜くと、二、三歩下がってデスクに向かって手をつき出す。 その瞬間、パソコンが音もたてずに粉々に砕け散った。 「終焉をもたらす、か」 まさかこのヘンリー・フィッツジェラルドも、父親と同じように世界の積み重ねを無にしようとしているとは……白紙に戻った歴史の最初に、名を連ねようとしているとは。と呟いて。 「この世界にはやり直しが必要だ……やるだけのことをやりゃ、あとはそれまでの積み重ねが何とかしてくれらぁ」 そのまま、家族と共に食事をとるために下階へ降りていった。
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