Not Of This World

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Not Of This World

1976年、CYICOP(超常現象の科学的調査のための委員会)が超常現象専門誌『The Zetetic』を初版した記念会の際、委員会設立の決め手となったとある重大な発見をした二人に対する、二人の故郷ミシシッピ州州営放送の特派員によるインタビュー…… 「ではまず、キューブの第一発見者、元海兵隊員にしてベトナム戦争にて数々の勲章を得られたフリッツ・ベルネマン氏、よろしくお願い致します」 「馬鹿馬鹿しい、おれが発見しただって?あんた、雑誌のおれが書いた……いや、書かされた記事を読んでないのか?」 ろくに櫛を通していない茶髪に無精ひげ、海兵礼服と到底この場に合わない恰好の男ができる限り最大限の渋い顔をして、侮蔑を記者に向けた。 「おれがキューブを見つけただなんてとんでもない、むしろ、おれがあそこまで赤裸々に事のあらましを書いたのはベトナムでの狼藉を誰かに裁かれたかったからだ。ところがどうだ、おれの蛮行に誰もかれも、非難の一つない……どうかしてるぜ」 「きっと冗談をおっしゃられているのでしょう……持ち主の願いを何でも叶え、そして絶大な、人間を越えたパワーを与えるキューブ……雑誌が発行された後オクラホマ州やネバダ州で続々見つかったそれは、大勢の使用によって確かなことだと証明されたではありませんか」 「おれがベトナムの隠れ里で“見つけて、奪った”キューブのことな。今からの言葉、編集するなよ……」 「できれば、もう少し視聴者にわかりやすい説明をお願いいたします」 「キューブを便利なコンサルタントと思っている馬鹿ども!今すぐやめろ!きっと取り返しのつかないことになる……おれはベトナムでキューブを奪った際、現地人に止められなかったさ!あいつらは、肩をなでおろしていたんだぜ!なぜだと思う、もうキューブに支配されずに済むからさ!キューブの呪縛の鎖が、あいつらからおれに移ったのだからな!」 「鎖?」 「忘れもしない、72年のあの日……おれの部隊はベトナム・カンボジア国境付近でパトロールを行っていた……ベテランの勘すら鈍らせる、牙を剥いたジャングルにてベトコンからの奇襲によりおれたちは完全に自分たちの位置を把握できなくなってしまったんだ。それによって部隊長を失い、軍曹だった私は臨時で指揮を執ることとなった……カンボジアにまで抜けてしまえば同胞によるクメール・ルージュ目当ての爆撃に巻き込まれることもあり得た……さりとて、ジャングルのどこに敵が潜んでいるのかもわからない。おれは必死に、そこから離れようとした……」 記者は白痴のように微笑んでいる。ミシシッピは保守的な地域、戦争の話は受けがいい。 「……運命の糸が、絡まった瞬間だった。私たちは必死に退路を探して歩き続けていたら、突然開けた場所に出た……そこは、地図上にない山岳少数民族の隠れ村だった。やっこさん方は敵の敵ということで米軍が武器や情報を支援していたし、おれ自身その村の責任者が米軍基地に訪れるのを見たこともあったが、実際に隠れ村にたどり着いたのはおれたちが初めてであったらしい……やつらはゲリラに対するゲリラよ。自分たちは阮朝の時代から差別され続けてきたからこそ、アメリカに味方しているのだと……おれは村長に、戦果報告を兼ねてカタコンベに案内されたよ」 「かた、こ?」 「あんた大学出てんだろ?フランス式の共同墓地だ……立派なものだったよ。手作業で作られた、高さ2メートル、幅3メートル、奥行き30メートルほどの小さな地下道。その壁に、無数の人骨がアカの武器や国旗とともに埋め込まれていたよ。すべてベトコンのものだとな……あいつら、ベトナム人の戦いぶりは我が海兵隊でも見習わねばならん。中国と、フランスと、そしてアメリカと戦い続けたあの国は……単純に、一人一人が強い!」 「あまり、ベトナムを持ち上げられるのはちょっと……敗戦感情がまだ濃いので」 「フン、続けるぞ。とにかく、おれはカタコンベの最奥に……キューブが鎮座しているのを見た……サイコロ程度の大きさ……自然物とは思えないほどの均整の取れた形……そして、あらゆるものを吸い込む欲望の銀色!息をのんだよ。村長は自分たちの守り神と言っていた……おれはそれを一目にして、何も考えられなくなってしまった……」 「……」 「薄汚いアーリア人の血の覚醒とでも思ってくれ。おれは……おれはそのキューブを台座からひったくり、走って逃げようとした。だが村長は止めなかった……出口に近づいて、村長が追ってこないことに違和感を覚え振り返れば……『それがほしいのか?』と」 「……」 「おれは『ああ、そうだ』と答えたよ。お互い、相手の目を見据えて瞬きもできなかった。にらみ合いの末に村長は……『そんなに欲しくば、くれてやる。持ってゆくがいい』とね……ただ最後に一言だけ付け加えられたよ。『お前は呪われた、代償に気を付けろ』と」 「何か、失ったのですか?キューブを得てから」 「初めはこけおどし、ただの信心深いやつの言葉とだけ思っていた……実際、山岳民族は不安定な立場だ……アメリカの庇護を失えば、それまでだったからな。ベトナムのマジョリティであるキン族との対立でどちらに分があるかは明白だった……結局ケツ持ちが負けたがな。とにかく、おれからの心象だけでも悪くしないようにとプレゼントしてくれたのだろうと気楽に考えていた……のだがな」 「……」 「だが、キューブを手に入れてからおれに多くの幸運が舞い込んできた。戦闘中に部隊が全滅して孤立したとき、すんでのところで味方が駆けつけたり……敵のブービートラップにで未熟なベトコン兵士が独り相撲をし……またいくつもの機密文書を見つけ、勲章を下達された。戦争から引き揚げてみれば、多くの徴兵帰還兵が軍から見放され、職を得られない中海兵隊に残ることもできた……どうだ、いいことずくめだろう?お前も欲しくなっただろう?」 「私も、ぜひキューブを手にしてピューリッツァー賞を獲得したいですな」 「……それなら、オクラホマやネバダのインディアンの住処を漁ってみればいい。まだインディアン達が隠しているキューブがいくらでも見つかるだろうよ……あの論文のせいで静かに暮らしていた多くの先住民、少数民族が住処を荒らされ、キューブを奪われる……なのに、一人としてインディアンどもはおれたちを批難しない!やつらの、超自然の叡智を奪ったのに!ロナルド・クランプって小僧が不動産屋からキューブ屋に鞍替えしてたぜ。ざっと1000万ドルでも出せば売ってくれるさ……先住民はみな、わずかばかりの惜し気な表情と共に安堵を見せるそうだ。どうぞどうぞ、好きなだけ持って行ってくれ、とね」 「……」 「おれが何を恐れていると思う?」 「いったい、何でしょうか?」 「いまだに、何も代償を取り立てられていないことさ。いつ、何を持っていかれるのか分かったものじゃない……どうせ、誰もおれの言葉を聞かずにただうらやむのだろうな……もう充分だろう、あんたらからすればキューブをタダで手に入れたおれは世界一のラッキー野郎かもしれないが……フン、これだけ話して、何も知らないやつらを煽ってやれば十分か?可能な限りの警告は添えた……」
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