プロローグ

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「…あ」 本棚の一番上。 好きな作家の短編集を見つけた。 これ、…読みたかったんだ。 「…ん…しょ」 私はつま先立ちになって、腕を伸ばす。 指先がかろうじて本の背表紙の端に届いた。 もうちょっと…あと少し…… フルフル震える指と腕と脚。 限界まで踵をあげる。 「……んー……」 ノドの奥から声がもれた。 うう…手がつりそう。 そしてバランス崩して転けそう。 150㎝ピッタリの私の身長。 こんなとき背が低いのが本当に嫌になる。 届け、届け、届けー…。 「…この本?」 ――え…? 突然、 私の伸ばした手に重なるように触れた、大きな手。 目当ての本が、ひょいっと引き抜かれる。 「……あ…の」 背伸びしたまま顔をそちらに向けると 「…はい。この本が取りたかったんだよね」 柔らかそうな茶色い髪の男子生徒。 目が丸くて、どちらかと言えば中性的な顔立ちをしている。 明るい笑顔を浮かべて、私に本を差し出してくれていた。
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