寛容と冷たさはとてもよく似ている。

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   俺は、唯に合鍵を預けてあった。  だがそれは俺がいない間に使っても構わない、という意味で渡したものじゃない。  この間みたいに俺が眠り込んでいてもそっと上がってこられるように、だ。  それは、鍵を渡したときにちゃんと伝えてあった。  俺は他の女なんて連れ込んで浮気したりしないし、ここに上げるのは(今は)お前だけだとちゃんと判るように言った。  好きだ何だと甘いささやきを口にしない代わりに、一番の座はお前のもんだよ……と。  唯はそんな馬鹿じゃないし、彼女はそれをずっと守ってきた。  俺の知る限り、不在のときに上がり込んで物色した形跡もなかった。  別にそれが判るような仕掛けなんてしてなかったけど、まあそういうのはだいたい判る。  そのために部屋の中を唯にはいじらせてこなかったんだから。  ジリジリと、怒りが足元に這い寄ってくる。  まったく、昨日から何なんだ。  長すぎる1日に、溜め息が漏れた。  1日に2人の女とやった……なんて学生のとき以来だ。  正直、心身ともにぐったりなんですけど。  元嫁にまで会ったし、もうさっさと寝たい。 「あ……お、おかえり、なさい……」  そっと玄関を覗き込んだ唯は、すっかり寛いだ様子でカットソー姿だ。  上に着ているカーディガンとかジャケットはいつものようにそこらに置いてあるんだろう。 「何してんの?」  唯が顔を覗かせたと同時に、トマトか何かを煮込んだ匂いが漂ってきて、冷たい声しか出てこなかった。 .
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