第一章

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2000年8月2日 トルコ国境 ーー気がついた時には、俺は数人の子供達と一緒に薄暗いコンテナの中へ押し込まれていた。 コンテナに入れられてからどれくらい経っただろうか。 5時間?10時間か、いや1日?それとも3日くらいか?時間の感覚が分からない。 灯りが殆ど入って来ないコンテナの中は酷く暑かったのを覚えている。 最初は泣いていた子どももそのうち疲れ果てて泣くのをやめた。 俺も泣いてたのは最初の数分だけで、不貞腐れたように体育座りしてひたすら扉が開くのを待っていたと思う。 ーーお父さんとお母さんはどこへ行ったんだろう。 寂しい、怖い、お腹が空いた。 そんな事を考えていた。 なんでこんな事になっていたのか? 理由は簡単、現地で誘拐されたのだ。 迷子の所を捕まえられ、バンに載せられ今に至る。 ここにいる子ども達も同じだろう。 皆、どこかの国から旅行でやって来て拐われた。 だからみんな何語を話しているか分からない。 だって小学校入りたてじゃあ日本語ですらおかしいっていうのに、英語だのフランス語だので話しかけられても分かりやしないだろう。 ・・・・・・帰りたい。 心の底から思っていた。 ふと、コンテナの扉が開く。 眩しい外の光が目に、そして知らない言葉が耳に飛び込んだ。 扉を開けたのは布で顔を隠した数人の大人達。 知らない大人が怖い格好をして何かを話していた。 手にはライフルーー今思えばAKS47だーーを持っていて、こちらに向けて来た。 俺を含めた子供たちは震えて、おしくらまんじゅうするように一箇所へと固まった。 ふと、俺と密着している女の子が何かをぼそぼそと口にしていたのに気がついた。 少しだけ年上で、金髪セミロングの綺麗な娘だった。 多分、神に祈っていたんだと思う。 その時、銃を手にした大人が俺たちに何か言った・・・・・・と言うより怒鳴った。 日本語じゃないのは確かだった。 だって周りの子ども達はみんな日本人じゃなかったし、何より俺が聞き取れなかったんだ。 だが回りの子たちには分かっていたみたいで、ぞろぞろとコンテナから出ようとしている。 なるほど、コンテナから出ろって意味だったのか、と一人納得し、俺も出ようとした時だった。 金髪の女の子が、腰を抜かしていて立てないのだ。
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