第1話

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彼女は白い塊をひとつ、つまみあげた。 これなあに? カイコの繭だよ カイコ、虫さん? 彼女の細い指の間で、それは柔らかな光を帯びていた。 君の着てる服、その繭でできてるんだよ 彼女の目は、ドレスの胸元から白い繭へと移った。大きな目でしげしげと見つめていた。 わたしにも翅が生えてくるかしら 彼女は無邪気に笑った。僕は何も答えなかった。                  2 彼女は来週、白いドレスを着るのだそうだ。 頭に華とレェスをつけて、白い手袋をはめるのだそうだ。 僕の手の中に、小さな小さな塊があった。 それは丸くて柔らかくて温かかった。 これを身に纏うとき、彼女はどんな風に笑うのだろうか。 彼女の見納めに、僕はどんな涙を流すのだろうか。 透明な嬉しさではないことは確かだ。 きっと赤くて黒くてはい色に違いない。 そして僕の中の彼女は微笑み、 微笑みながら死んでいくのだ。 白くて温かな繭に包まれ、僕の知らない喜びの中で、 僕の知らない人になるのだ。
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