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とある施設の入り口で僕は呆然とした。
この施設で、権力者達が生き残るための極秘プロジェクトが進められていることは知っていた。そして、そこに入る為にはIDカードが必要なことも。なぜならば僕は天才だから。
「ぼく、どこからきたの?」
まさか警備員がいるなんて思ってもいなかった。僕はポケットの中の偽造カードを握りしめた。
落ち着け。冷静に考えれば、僕は天才。ならば顔パスであってもおかしくはない。
「ちょっと、ちょっと。ここは遊び場じゃないんだから」
摘み出されたのである。この天才が、摘み出されたのである。譬えや比喩ではない。襟の裏側を人差し指と親指で摘んで出されたのである。この天才が。
落ち着け。そうだ素数を数えて落ち着くのだ。何も強引に入る必要はない。少し頭を使えば簡単に入れるのだ。なにせ僕は天才。凡人を欺くなど容易いことだ。策の百や二百、すぐにでも思いつく。
「あのね。ぼく、おかあさんにたのまれたの。これだいじなものだから、おとうさんにわたしてきて、って」
僕は無邪気に笑い、ついでに片方から鼻水を垂らして封筒を前に出した。
「お父さんの名前は?」
「天城孝二っていうの」
リサーチ済みである。僕はまた歯を出して笑い、ついでに鼻提灯まで作ってみせた。
「でもキミ、たなかって名札に書いてあるよ」
……バレた。
「嘘なんだね」
警備員は疑いの眼差しで、しっ、しっと犬でも追い払うように手を振った。この天才をである。
万策尽きた僕は仕方なく家に帰った。しかし、これは敗北ではない。戦術的撤退である。
どうやら雨が降っているらしい。足元に雫が落ちた。
頬を伝うそれは、少ししょっぱかった。
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