灯火

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  「ホタルの妖もいるんだね、八雲(やくも)は知ってた?」 「知らないよ。そんな話聞いたことないし。で、お兄さんは何なの?」 「俺は、ただのホタルだ。それ以上でもそれ以下でもない」  騒がしい人間のような見た目をした二人の会話を尻目に、寒紅梅の木の枝に座り、少し前まで自分が眠っていた場所を見つめる。  あまりにも自然界がうるさくて、生まれる時期を間違えた俺。夏に光り輝き優雅に飛ぶとして知られている『ホタル』、それが俺だ。名前なんかあっても1日でその生涯を終える存在。あるだけ、無駄。だから、名前はない。  俺が生を受けて飛び込んだ世界は、どうやら、間もなく滅ぶとかで、生きとし生ける者が慌てふためいているのだとか。いつかは、皆死ぬものなのに。慌てふためく理由は俺にはさっぱりわからない。  さて、話を戻そう。俺は生まれたばかりの存在だから、知らないことが多い。だが、この状況は何だろう。 「お兄さんお兄さん、明日地球が滅びるって本当?」 「華南(かなん)、それは木霊のばっちゃんが言ってたから滅ぶんだよ」  猫耳装備で焦げ茶色の前髪ぱっつん少女は、華南という名前のようだ。  犬耳装備で漆黒の前髪ぱっつん少年は、確か八雲といったか。  華南が赤紫、八雲が青紫の色違いの狩り衣を着ている。この双子と思われる二人は、生まれて間もない俺をお兄さんと言いやがる。  自分の姿を水面に写そうとしたが、どうやら今の姿は特殊らしい。水面に写らず、確認することは叶わなかった。
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