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「お前、俺らの姿が見えるのか?」
「えぇ。でも、珍しいですね。いつぶりでしょう、あなたのような方を見るのは」
少し前から雪が降っていたためか、和傘をさしている、この銀髪の男性。妖に対する恐れとかないのだろうか、人以外の存在を当然のように受け入れている。
「あ、天狐さま! 私、今日三味線持って来たよ。一緒に弾こうよー」
「天狐さまも、百鬼夜行に参加するんですか?」
「……華南の三味線の音を聞きたかったのですが、残念ながら先約がありまして。八雲、私は百鬼夜行には参加しませんが、ある用事のためこの町にいます」
獣耳の二人の頭を撫でている天狐という男性は、パッと見ただけでは、わからなかったが妖のようだ。彼も参加しないと知った華南は 、うなだれていた。天狐は華南の頭を撫でながら、優しく言葉をかける。
「華南、百鬼夜行は既に始まっています。京都ならば、あなたが憧れている妖の天合や、もしかしたら建春門院もいるでしょう。久しく会ってはいませんが、まだいるはずですよ」
「じゃあ、行ったら会えるかも!」
華南は、満面の笑みを浮かべる。この子を貸しますよ、と小さな狐を袖から出した天狐は、俺のほうを向き意味深な言葉を残す。
「儚くも美しいホタルの光ですが、あれ、何の光なんでしょうね」
その言葉の意味を聞くより早く小さな妖の二人に引っ張られた俺は、わけのわからぬまま、町のはずれへと向かった。最後に見た天狐は、憂いを秘めた目で空を見つめていた。
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