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「捺津お兄ちゃんは、ホタルなんだよね?」
管狐が走りはじめてから間もなく、今更何を聞くのかと思うような華南の言葉に、脱力感を覚えた。
「今更何を……ホタルだな、俺は。それがどうした?」
「ホタルには、鉄の掟っていう名前の、ルールみたいなものってあるの?」
動物などで言えば本能で行動するよう、備わっているものの有無ということなのだろう。約1日で一生を終える俺のようなホタルには、特にない。
「私は猫又だから、人間の世界にいる猫とは少し違うんだけどね、この前聞いたの。猫の掟の話」
「猫の掟? そんなものがあったのか?」
「うん、私が聞いたのは──」
そう言って、華南はトモダチから聞いたという話を、俺たちに教えてくれた。
□
「猫の掟?」
『お前、知らねぇのかよ。人間に死に際を見られてはならないという、猫の掟だ』
「私、初めて聞いたよ」
その子は、生まれた時から名前がなかったらしい。大事な妹とずっと一緒に生きてきたというこの男の子は、これからある山の中へ行くのだとか。
「猫の掟のために山に行くの? 何をするの?」
『お前、この世がもうすぐなくなる話、知ってんだろ。それで人間も猫も、最期の日を待てずに、命を絶ってんだよ』
山の中へと移動した一部の猫は、円状に並んで隣の猫の喉元を食いちぎるという集団自殺を行っているという。この男の子は、運悪く生き残ってしまった同族の介錯をしているとのこと。
その爪を血に染めた姿を、狂気に染まった同族の姿を大事な妹には見せたくないと、苦しそうに男の子は話していた。
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