灯火

9/17
前へ
/20ページ
次へ
  「わかるよ。同族が命を絶つ苦しさは」 『お前、猫又なんだろ。死ねないんじゃねぇのかよ』  猫又を含め、妖の多くは不老不死と考えられていて、そう簡単には死なない。しかし、猫又は妖の中でも人間に『殺される側』となりやすい。 「この三味線の皮、何で出来ていると思う?」 『そういやぁ、たまに見る猫又、どいつもみんな三味線持ってるな』 「答えはね、猫のお腹の皮。美しい音を紡ぐっていって、人間に捕まった猫は、皮を剥がされて三味線になるんだって」  皮を剥がされた猫は、三味線の皮となった後でも、その怨みや憎しみを抱き続ける。猫又が皆、三味線を持っているのは皮を剥がされた同族を弔うためだと、華南は生まれたときから教わっている。 「三味線の皮になって死んじゃう猫又、結構多いんだよ。私のばばさまも、三味線になっちゃったんだ」 『猫又にも掟があるんだな。さて、俺はそろそろ行くよ。もうすぐ世界が終わるからな。最期は妹の側にいたい』 「わかった。じゃあ、またね」 「またね」それは、この世において二度と果たされることのない約束。そうだとわかっていても、声をかけた。  痛みも苦しみもない、同族同士が殺しあうことのない、そして大好きな、大切なヒトたちに会える七色に輝く『虹の橋』と呼ばれる場所。この世が終わったら、あの男の子にまた会えるような気がした。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加