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迷子になったねずみさん、森でちぃちぃないていた。
するとひとり、きつねさんがやってきた。
「坊や、どうして泣いているの」
「お家へ帰りたいけれど、どの道行けば、いいのかな」
それならおまかせ、ときつねさん。
でも、
「今日の森はもう暗い。明日おうちへ帰ればいいよ」
そう言って とことこ、案内しだした。目指すおうちは、きつねのおうち。
月も真上へのぼったころ、ふたりはようやくお家へ着いた。
「良かったわ!きつねさん、とっても優しいのね」
幼い少女は頬を紅潮させた。男の手にした絵本の挿し絵に、その大きな丸い目が釘づけになっている。男は優しい声音で言った。
「そうだよ。でもね、このお話には、大事な続きがあるんだ」
男はまたページをめくった。今度もかわいらしい挿し絵があった。
ねずみの坊やは大喜び。きつねさんにお礼を言った。
「ありがとう。今晩ここで寝ていいんだね?」
「ああそうさ。ゆっくりゆっくり眠るといいよ。これも、ひとだすけなんだから……」
ずうっとね。きつねさんはよだれを拭いた。
あっ、と思ったねずみさん、気づいたときにはおそかった。
きつねのお家の目の前で、がぶりとひと呑み。食べられた。
「そんなあ……」
少女は手で顔を覆ってしまった。だが泣き出しはしなかった。この男に出会うまで、散々泣いていたので、もう涙は出なかった。
「ごめんよ、お嬢さん。」男は半ば戸惑って言った。「怖がらせるつもりはなかったんだ」
「ううん。いいの、いいの」少女はぶんぶん首を振った。
「それより、ありがとう、おじちゃん」
少女は、座っていた切り株から立ち上がった。コートの裾をはたく音が森中に響いた。
「いいや。これも、ひとだすけなんだから。……」
「これに乗れば、お家に付くんでしょ?」
「そうだよ。後ろの椅子に座るんだよ」
少女が車に乗り込むと、男もゆっくり立ち上がった。運転席へ乗り込み、エンジンをかける。
「そう。これも、ひとだすけだしね……」
「え?」
「いや、おじさんの独り言さ。かまわず眠るといいよ」
少女はにっこり笑った。次の瞬間には、歩き疲れていたのか、すぐに眠りに陥った。
車はどんどん進んで行った。暗い暗い、森の奥深くへと……
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