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1 葵と茜  だらだらと続く上り坂を、僕は何とか登り切った。肩で息をしながら、これからの四年間、この坂を上り続けるのかと思うと、僕はいきなりくじけそうだった。こんな事なら、この坂の上に部屋を借りればよかった、と後悔したところでもう遅い。それに、坂の上と下では家賃が全く違うのだ。それこそ、倍とまでは言わないが、諭吉さんが数人、毎月余計に飛んでいくような事になる。実家からの仕送りを最小限にとどめている以上、僕にはそんな余裕は無かった。  ふと振り返ると、眼下に海が見える。その手前には住宅街らしく色とりどりの屋根と、いくつもの長方形の建物。あの中に僕の借りている部屋があるマンションもあるはずだ。月々の家賃は三万円と少し、これほどお得な物件は無いと飛びついたのがまずかった。まさか、大学までの道の途中にこんな坂があるだなんて、予想していなかったのだ。  坂の途中には僕と同じような境遇らしい、同年代の男女がえっちらおっちらと上って来ている。中には自転車を降り、押している者もいた。彼は明日も自転車に乗って通学するのだろうか?  そんなことを思いながら、僕は振り返り大学に続く道を歩き始める。  これからの先行きにかすかな不安を覚えながら。
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