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その溜息は残弾が残り少ない事と、現在自らの置かれている状況に対してのものだった。
やっとこさ終わった仕事の後、突如この島のとある企業のお偉方から連絡が入り、バカンスも兼ねてこの地上の楽園と呼ばれるセレーナ島に来たというのに……
はるばる船でここまで来たらお偉方とは合流できず、待ち合わせ場である空港でコーヒー飲みながら寝て待機していたらこの有様である。
恐らく船が停泊している場所まで戻るのは困難だろう。
倒壊したターミナルの一部と広まる火の手で遮られているからだ。
無駄骨では済まされない、バカンスもへったくれもあったものじゃない。
「クソッタレが……」
ベレッタM9の装弾数は15発、なるべく弾の消費は抑えていたものの残りはたったの5発。
極力戦闘を避けてなんとかここまでやって来た、しかし最後の最後でソレの大群が入り口に大挙しているのである。
旅客機がターミナルに突っ込んだ時からちらほらと炎が立ち昇り始めていた、このままでは焼け死ぬのがオチだが此処を突破できない事にはどちらにせよマズい。
「ゾンビがここの観光キャラクターか? こんな出迎えは頼んでないんだけどな」
こんな状況でも冗談が言えるだけマシというものだろうか。
チャックは通路脇にある非常ベルのカバーを思いっきり叩きつけてボタンを押した。
ゾンビは音に敏感に反応する事をこの一時間でチャックは確認していたのだ。
ベルの音に誘導されるゾンビの大群、入り口の守りが手薄になったところにチャックは最後の突撃を仕掛けた。
残弾数を気にせず、惜しみなく残りの弾丸を少なくなったゾンビの群れに喰らわせて彼はなんとかゲートをくぐり抜け、ターミナルからの脱出に成功した。
彼を待つ更なる地獄、それは炎に包まれた旅客機の数々。
既に燃料タンクに引火して爆発した機体も多い、既に火の手はターミナルの中にまで広がっている。
長居は無用だ、早くここから離れよう。
チャックは残り一発となったベレッタを肩のホルダーに仕舞い空港を後にした。
炎に包まれつつあるターミナルからは、ゾンビの呻き声だけが重なり合って響いていた。
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