一、そんなの面倒臭い

3/18
前へ
/163ページ
次へ
 期待に気持ちが逸る。疾うに呼吸は乱れ、言葉は声にならない。それでも、早く、早くという想いは織人の胸を破裂させんばかりに膨らんでいく。足をもつれさせながら、織人は全力で走り続けた。  やがて大きな御館が織人の前に立ち塞がった。この集落を治める一族が住まうものとして相応しい、木組みの壁の立派な御館だ。高く床を上げて建てられている。 (ここか)  ごくりと喉が鳴る。織人は入口に続く階を見上げ、すぐさま駆け上ろうとした。  ところが、その時。ガチャリと金属の擦れ合う音が響き、織人は足止めを食らう。 「おい待て。何者だ」 「ここは真緒(まお)姫の居館だぞ」  階の両側に立った二人の兵士が突如として現れた少年に慌てふためきながら、それぞれが手にした矛を交差させた。不審感を露わにした視線が織人を舐めまわすように上下する。 (くそっ!)  織人は肩で大きく呼吸を繰り返しながら、兵士たちをまるで親の敵に向けるような目で睨み返す。 「退け!」  織人の怒鳴り声に兵士たちは同時に眉をひそめた。なんだ、この少年は。――そう顔に書かれている。織人は面倒臭そうに舌打ちをした。 「俺は姫君に用があるんだ! そこを退け!!」
/163ページ

最初のコメントを投稿しよう!

295人が本棚に入れています
本棚に追加