八、君恋うまで

18/23
292人が本棚に入れています
本棚に追加
/163ページ
「わたしは咲穂姫が愛おしい。誰よりも何よりも恋しく思っている。貴女が傍にいてくれぬのなら大王になどなっても虚しいだけだ」 「矢凪様……」 「わたしは地位を捨てる。咲穂姫も一族を捨ててわたしに付いてきて欲しい。わたしは貴女と共に生きたい」  咲穂の黒く潤んだ瞳から大きな大きな真珠のような雫がぽろりと零れ落ちる。なんて綺麗な涙だろうか。それはあらゆる悲しみを洗い流してくれる宝玉に違いなかった。真緒は吐息を漏らして織人の袖を引く。そうやって何かに触れていなければ、自分が立っている場所があやふやになってしまいそうなくらいに心が大きく揺れ動いていた。 (大丈夫。咲穂姫はもう大丈夫だわ。皇子様がずっと一緒にいてくださる。だから、大丈夫……)  深い安堵に包まれて真緒まで涙が零れ落ちそうになる。潤んだ視野の中、咲穂が両腕を伸ばして求めると、すぐにその頼りない体を逞しい腕が抱き取って引き寄せるのが見えた。矢凪が軽々と咲穂を抱き上げたのだ。  矢凪の視線が不意に真緒の方を向く。 「真緒姫、申し訳ない」  「どうして謝られるのですか。私はとても嬉しいです。大好きなお二人がお幸せなら、私も幸せですから」 「真緒姫、私……」  矢凪の腕の中から咲穂が手を伸ばして、真緒の手を取る。 「友人になってくれないかしら?」 「私はずっと以前からそのつもりでした」 「まぁ、なんて図々しい人なの。でも、私、貴女が好きよ」 「はい、そうだろうなぁって思っていました。ずっと以前からです」
/163ページ

最初のコメントを投稿しよう!