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第41章 もう一つの遺書
布団に入って眠っていた会長の健一郎は、ホテル内を行き交う物々しい音を聞き、何事かと不審に思った。
めったな事では使わない非常口を開けて、廊下に出て、すぐ目の前にある社長室に入った。部屋の中には、刑事や鑑識がいて、我が物顔で動きまわっていた。
「お前ら、一体、何をしてるだ!」
健一郎は、警察一同に向かって一喝した。
警官たちが、健一郎の剣幕に驚いて一瞬、静まり返った。
奥の部屋から、木内と金子が顔を出して、健一郎の前に来た。
「会長さん、大変な事になりました」
金子が言った。
「一体、何事だ?」
「犬養と愛子が、心中しました」
「な、何だと。あの二人が心中とは、どういうことだ」
「先ずは、この遺書を読んでください」
金子が、健一郎に犬養の遺書を手渡した。
健一郎の手は震え、大粒の涙が溢れ出てきた。
「さらに今、愛子のデスクの引き出しから、彼女の遺書が見つかりました。これも読んでもらえますか?」
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
私は罪を犯しました。専務を殺したのは私です。
あの夜、専務は緊急の用事があると言って、社長室にやってきました。彼は、夫や私の不倫を持ち出して脅迫してきました。しかし、私が無視を決め込んでいると、彼は、襲い掛かってきました。
私は必死に抵抗し、無我夢中で振り払いました。よろめいた彼は、後ろ向きにひっくり返り、頭を浅間山の青銅模型に打ち付けました。血を流して、もがき苦しんだ後に、動かなくなりました。
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