第40章 ベガとアルタイル

3/4
前へ
/18ページ
次へ
 子供の戯言(ざれごと)と笑うかもしれませんが、真剣に愛し合い、将来の結婚も誓い合いました。その証として交換したのが、「I」の刻印のある水晶のネックレスでした。旧軽銀座のアクセサリー屋で買った安物ですが、僕らにとっては何物にも代えがたいものでした。  しかし、突然、彼女と連絡が付かなくなりました。しばらくして、彼女の父の事業が失敗し、夜逃げしたという噂を聞きました。それから数ヶ月後、僕も、父の転勤で軽井沢を離れました。  何度か、愛子に手紙を書きましたが、返信はありませんでした。しかし、僕の心の中には、彼女がずっと住み続けていました。  中高生の頃も、各地を転々としました。そして、北海道の大学に進学し、卒業後は、札幌のホテルに就職しました。    その後、ヘッドハンティングされた稲葉さんに誘われて、軽井沢のヴィラ・ヘメロカリスに来ました。そこで愛子の姿を見て、僕は目を疑い、そして、運命を呪いました。最愛の女性との再会が叶った時、既に、愛子は人妻となっていたのです。  しかし、僕らの恋が再び燃え上がるのに時間は掛かりませんでした。人目を偲び、僕らは逢瀬を重ねました。  僕らの恋を不倫と呼ぶのなら、この世の恋は全て不倫です。僕らの想いは、如何なる障害にも屈しません。  しかし、会長には申し訳ない気持ちでいっぱいです。会長は、孫を待ち望んでいました。一緒に、野山で虫を捕まえたり花を摘んだり、岩魚を釣ったりして遊びたいと言っていました。会長、御免なさい。僕を実の息子のように可愛がってくれたのに、僕は、あなたを裏切っていたのです。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加