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「それは指きり拳万をしていた時でしょう」
「はぁ?指切り拳万だと。何故、そんな事をしていたんだ」
「互いの秘密をばらさないという約束のためですよ。犬養には、3人で何度も札幌に出張しているうちに、清子との関係を気付かれましたが、私も犬養と副社長の不倫を、今年の冬に知りました」
稲葉は、目を細めて回想して言った。
「肌に痛みを感じるほどに寒い夜、私は会長の健一郎さんに用事があったので、駐車場を回ってホテルの裏手へ向かいました。すると、物陰に隠れるようにして、二人が星を眺めていたのを目にしたんです。最初、二人は私に気付いていないようだったので、足音を忍ばせて近づき、二人の会話を盗み聞きしました。二人は熱心に、星座に付いて話しているようでしたが、その会話の端々で二人は愛を確かめ合っていました。
暫くして、私の存在に気付いた二人は、幽霊でも見るように私を見詰めていました。
後日、副社長と私は、お互いに、秘密を他言しないように社長室で約束をしたんです。その時にしていた指きり拳万を、社員に見られたんでしょう」
「愛子の不倫の相手が、犬養だったなんて…」
木内は頭を振った。
「犬養は、矢崎を殺害した犯人が私だと勘付いていました。自首を勧められましたが、逮捕される事が恐ろしかった私は、自首できませんでした」
「そうですか、やっぱり、犬養さんは気付いていたんですね。道理であの時、様子がおかしかった訳だ」
金子が、髭を、さすりながら、うなづいた。
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