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「さ、教室行こ」
何事もなかったかのように、笑って私の背中を押した束元君。
「う、うん、あの……っ」
「何?何か俺に用だったの?」
「あ、あのね……」
彼に伝えようと決心した勢いが、どんどん消極的になっていく。
上手く口に出来ないもどかしさに、気持ちだけが膨らんでいく。
始業間近の長い廊下。
教室へと向かう生徒の群れも疎らで、こんな風に束元君と二人で歩いている時間さえも愛しく感じる。
「……飴、食べた?」
「え?あ、ま、まだ……」
「テスト始まる前に食べちゃいなよ。脳の動きが良くなるから」
「そ、そうよねっ」
彼に言われるがままに、さっき貰ったばかりのキャンディを取り出す。
不思議な味のする不思議な色のキャンディ。
まるで束元君、そのもの。
そっと手のひらを開くと、包み紙が窓から射し込む柔い陽射しを反射するみたいにキラキラ光って見えた。
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