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「三咲(ミサキ)ってさ。可愛いよね」
それが高校に入学して間もない頃、彼が私に発した最初の一声。
「へ……?」
やっと馴染んできた真新しい制服。
さもずっと前から着ているかのように絶妙に着崩したその制服のポケットに両手を突っ込んだまま、彼は微笑んだ。
「うん、ほら。やっぱり可愛い」
自分一人で納得するかのように、うんうんと相槌を打つその姿。
漸く前後隣に座る同級生の名前を覚えたばかりだって言うのに、突然私の名を親しげに呼んだ人。
名前も分からない彼が笑って私の机の前で足を止めた。
「あ、あの……?」
着席している私からは机の前に立ちはだかる彼の顔はよく見えなくて、恐る恐る顔をあげる。
心臓が飛び出してしまうくらいの衝撃に見舞われたのと時を同じくして。
きっとあの瞬間、私は恋に落ちていたのかも知れない。
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