764人が本棚に入れています
本棚に追加
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「やっと終わったー!ありがとう三咲っ」
「いいよ、別に。どう致しまして」
「じゃあこれ、はい」
そう言って、いつもと同じ仕草でポケットから手を出す束元君。
休み時間の教室。
私の前の座席に座る彼がニッと悪戯に笑って、握った右手を差し出した。
もうすぐ、春が来る。
春休みが終わったら、私達は二年生に進級する。
思えば初めて話したあの日から、あっという間の一年だった。
あと少し。
こうやって当たり前みたいに彼が私にキャンディをくれるのは、あと少し。
「あ、ありがとう」
宿題を写させてあげる代わりに、いつも彼は“あわだま”をくれる。
小さな包みの綺麗な色のあのキャンディではなくて、大きくてしゅわしゅわの泡がたくさん出てくるやつ。
「これ、大き過ぎて食べにくいのよね」
思わずぽつりと呟くと、束元君は一瞬口を尖らせて、だけどヘラリと笑って見せた。
最初のコメントを投稿しよう!